
![]() ©トラフィックイーストアジアジャパン |
責任ある持続可能な薬用・アロマティック植物の採集現地を実際に視察してきた日本の関連企業の代表者らがインドから帰国した。
トラフィックが企画したこのインド訪問は、I-AIM(Institute of Ayurveda and Integrative Medicina)のサポートにより、経団連自然保護基金の支援によるプロジェクトの一環として実施された。その目的は、現場を知ることで野生の薬用植物の持続可能な調達の利点について理解を促し、日本の産業界で持続可能な野生植物利用やフェアワイルド基準に賛同する企業を増やすことである。
日本は、薬用・アロマティック植物の輸入量が世界で第4位(2007年)である。インドは日本にとって2番目に大きな供給国である。インドが生産している植物の多くは、野生から採取されているが、日本ではあまりこのことは知られていない。
日本企業からの参加者は、採集地域を訪問し、例えば地元の採集者が採集の際に植物にダメージを与えないようにどのように気を配っているのか、女性の採集者一人が早朝から正午までの間にどのくらい採集できるのか、どのように現地のNGOがひとりひとりの採集者を協同組合としてまとめたのか、など、大変具体的な事例を目にすることができた。地域コミュニティや地元の産業、森林局やその他利害関係者らと対面して意見交換をする機会もあり、インドの伝統に根付いた野生植物利用についての知見を得ることができた。
![]() 女性の採集者グループから説明を受ける ©トラフィックイーストアジアジャパン |
インドでは、フェアワイルド基準がウッタラカンド州やカルナータカ州での現地プロジェクトの中で取り入れられてきている。またインドの非木材森林製品に関する国の委員会(National Committee on non-timber forest products)および薬用・アロマティック・染料用植物(MADP)に関する国の行動計画基準のためのガイドラインへの情報提供に活用されている。
「このインド訪問に続いて、参加企業により持続可能な野生植物利用が検討され、まずはフェアワイルドの認知が日本の産業界に広がることを期待する」とトラフィックイーストアジアジャパンの金成かほるは言う。「今回参加した企業が、日本の民間ビジネス分野の中で、持続可能な野生植物利用の考え方を推進するサポート役となってくれることを期待している。長い目で見れば、日本の産業界の関与が野生植物資源の保全によい影響を与えるはずである。」
今回のインド訪問の報告も兼ねて、日本の薬用植物関連企業の円卓会議が来月東京で開催されることとなっている。
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伝統的な日本のお香を取り扱う、300年の歴史を持つ株式会社松栄堂からの参加者はこう言う。「この度のインド訪問において、今まで写真や文章からだった知識が、私たちの中で大変明確になった。現場を見なければ、地元の方々が持っている危機感や、先進性は実感できなかっただろう。数々の熱心な言葉や質問を、私たちの糧にしていきたいと思う。」
また、幅広い天然成分を供給する日本の伝統薬(漢方薬)企業、株式会社ウチダ和漢薬からの参加者は「地域住民の生活が森林そのものに根ざしたものであり、野生植物資源が彼らの生活・伝統文化を支えていることを強く実感できた。トラフィックの推進する持続可能な野生植物の採取という考え方や仕組みが必要であると認識を新たにした。今後の天産物原料の取り組みに有効に活用していきたい」と述べている。
フェアワイルド基準は、野生植物資源の持続可能な調達や、地域の採集者との公平な利益の配分を推進することを通じて、生物多様性条約の目標や世界植物保全戦略の具体的な目標の達成に向けた日本の取り組みをサポートするツールとしても活用できる。
日本は現在、生物多様性条約の議長国であり、2010年には名古屋で第10回締約国会議(COP10)が開かれた。この会議では、愛知目標や遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する名古屋議定書が合意されている。これらの目標や議定書の実施の進捗や成果を報告することとなる次の締約国会議(COP11)は、今年10月にインドのハイデラバードで開催される。
■関連情報
野生生物ニュース:日本企業がインドを訪問ー薬用植物の責任ある持続可能な取引への理解を深めるー
野生生物ニュース:日本の薬用植物産業界にとっても持続可能な調達は重要である
フェアワイルドとは
フェアワイルドに関するパンフレット
フェアワイルド基準
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© R.Isotti, A.Cambone / Homo Ambiens / WWF
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