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日本の薬用植物産業界にとっても持続可能な調達は重要である

2011年07月05日
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110705White-Palle-tree-harvesting.jpg トラフィックの新しいプロジェクトは、日本の植物産業界がアジアで持続可能な方法で調達された原料を求めるよう促すものである。©Arpana Basappa

【東京発 2011年6月】
トラフィックは、日本で新しいプロジェクトを立ち上げた。これは伝統的にも、現代の私たちの暮らしにも欠かすことのできない野生の薬用・アロマティック植物の持続可能な生産や消費を推進するためのプロジェクトである。

 「野生の植物はさまざまな用途に利用され、日本の文化の中では大変重要なものです。例えば漢方薬や伝統的な香道で使われる香をはじめ、化粧品や飾りとしても利用されています。さらにそうした植物は、ハーブティーや、料理に使われる香辛料としても輸入されています」とトラフィックイーストアジアジャパンの金成かほるは言う。「環境に対する認識や、健康志向のライフスタイルへの欲求が日本人の消費者の間で高まるにつれて、こうした資源の持続可能な利用の推進がこれまで以上に重要になっています。」

 新しいプロジェクト「日本の産業界が救うアジアの薬用・アロマティック植物」では、日本の企業が、野生の薬用植物の原料について責任ある生産や調達を実施できるように提案する。同時に、消費者に対しては持続可能な形で調達された製品を求めるよう働きかける。

 トラフィックが昨年発表したレポート『私たちの暮らしを支える生物多様性―日本の野生生物取引のいまー』によれば、日本は医薬品業界で使われている薬用・アロマティック植物について、2007年には世界で4番目に大きな輸入国(価額で133億円)であった。

 植物の多くはアジア地域で産出されており、主要な産出国上位3ヵ国は中国、タイ、インドである。

 「世界規模で、多くの野生の植物種が過剰採取によって脅かされている。日本は野生植物資源の主要な消費国である」とトラフィックの薬用・アロマティック植物のプログラムリーダーのアナスタシア・ティモシャイナは言う。「持続可能な調達実施を採用するという日本の産業界の長期的な取り組みは、野生の薬用植物の保全にとって大きな影響をもたらすだろう。このプロジェクトを通じて、日本は世界に対し、野生の植物の責任ある消費への認知度、貢献そしてリーダーシップを示すことができる。」

 このプロジェクトは、フェアワイルド基準の中の持続可能な植物の採取について国際的なベストプラクティス(最適な手法)の施行を推奨することになる。そしてこれは、トラフィックの薬用・アロマティック植物プロジェクトのひとつとして経団連自然保護基金(KNCF)による支援によって実施される。

 「薬用植物の希少性と有用性に着目し、その保全と持続可能な利用を目指すこの取り組みは、人間の福利にとって意義深いものだ。フェアワイルド認証は、利用者と生産地を結ぶ効果的なツールとなるだろう。このプロジェクトを日本経団連自然保護基金を通じて応援することは、生物多様性条約の新戦略計画(愛知目標)の実現に共に貢献しうる具体的な取り組みとして、大きな喜びである」と経団連自然保護協議会の事務局次長、福井喜久子氏は言う。

 持続可能な調達への挑戦にどのように取り組んでいるのかより深く理解してもらうため、日本の産業界からの代表者を招き、アジアでの植物を採集している現地に赴いてもらい、実際におこなわれている持続可能な採集を見学してもらう。

 現地を訪問した結果などは、その後ウエブサイトなどで報告される。また参加いただいた企業の代表者らがお互い情報やアイデアを交換できるような場を提供することも計画されている。

 このプロジェクトは、またアジア地域内で持続可能な形で調達される植物を購入するにあたって積極的にリードをとる会社に参加するよう勧める。

 トラフィックの日本での活動は、フェアワイルド基準の実施をサポートするための世界的な取り組みのひとつであり、フェアワイルド・ファウンデーションとのパートーナーシップを通じて開発、推進できるように手助けする。

 以前にも経団連自然保護基金は、日本の業界で使用されている薬用・アロマティック植物に関するトラフィックの調査や、2010年10月に名古屋において日本主催で開催された生物多様性条約第10回締約国会議の際に普及イベントに対し支援をおこなっている。

 生物多様性条約の世界植物保全戦略(GSPC)に対する各国の最近の反応として発表された『日本の植物保全-世界植物保全戦略への日本の対応-』は戦略の中の目標11を実行するための有益な手段としてフェアワイルド基準についての記述がある。戦略では、「あらゆる野生で採取される植物を基にした製品が持続可能な方法で調達される」と述べられている。フェアワイルド基準はまた、戦略における目標3、11、12、13の達成にも関係する。

 


 注:

1:経団連自然保護基金は、アジア太平洋地域を主とする開発途上地域における自然環境の保全に関する非営利の民間組織(外国の組織を含む)がおこなうプロジェクトや、わが国のすぐれた自然環境保全のためにおこなう保護活動、および持続可能な活用に関するプロジェクトに対し助成をおこなっている(経団連自然保護基金ウエブサイトより抜粋)。

2:フェアワイルド基準はフェアワイルド・ファウンデーションによって維持されている。以下の11の重点分野の中で、ベストプラクティスが提供されている。

1. 野生の植物資源の維持
2. 環境に対する悪影響の回避
3. 法律、規則、協定の遵守
4. 慣習上の権利および利益の配分の尊重
5. 採集者と雇い主の間での公平な契約関係の促進
6. 野生からの採集活動への子供の参加の制限
7. 採集者とそのコミュニティへの利益の確保
8. フェアワイルドの採集事業で働くすべての労働者へのフェアな労働条件の確保
9. 責任のある管理手法の適用
10. 責任あるビジネス手法の適用
11. フェアワイルドの購入者による関与の促進。

2011年07月05日
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