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【ドイツ、ベルリン発】
トラフィックは、このたび新しいレポート『Wild for a cure: ground-truthing a standard for sustainable management of wild plants in the field(野生植物の持続可能な管理の基準:フィールドにおける実証)』を発表した。薬やアロマ(芳香)、染料、食品として利用される野生の植物の持続可能な採取に関する新しい基準は、世界的に活用されることにより、植物種やその生育地を守り、また植物の採集に頼った生活をしているコミュニティの利益になるという新しい道筋を示している。
インドでは: Ailanthus triphysa (訳注:ニガキ科の一種)の木の樹脂はインドの伝統薬やお香に使われるが、インドのカルナータカでは現在、樹皮を剥がしたり木を枯らしたりすることなく樹脂を採集することができるようになった。
カンボジアでは:新しい協同組合が、より適切な採取・乾燥・市場販売をおこなうことで、薬用植物を採集しているコミュニティへの利益を増加させている。
ブラジルでは:アマゾナス州において、女性の共同組合と大手の天然化粧品会社が持続可能な方法で採取された製品の販売に関する協力関係を目指している。
レソトと南アフリカでは:その塊茎が消化器疾患の治療に使われるペラルゴニウム・シドイデスPelargonium sidoides(訳注:フウロソウ科の一種)の採取・管理戦略が、今後の植物の持続可能な採取とコミュニティにとっての長期的な利益を提供することになるだろう。
この新しいレポートでは、南米、南アフリカから東南アジアにおよぶ地域でおこなわれているプロジェクトについて詳しく紹介している。こうしたプロジェクトでは、持続可能な野生からの採集に関するガイドラインを適用することで、地域の人々にとっての暮らしや利益を改善しながら、野生から採取される重要な自然資源を守るための新しい方法が考案された。 薬や化粧品や栄養補助食品に利用されている推定5万~7万種の植物のうちおよそ1万5000種が脅かされており、こうした植物の供給を確保するための実用的なガイドラインを開発することは、今もっとも緊急の課題である」とトラフィックのグローバル薬用植物プログラムのリーダーでこのレポートの共著者でもあるアナスタシア・ティモシャイナは言う。
ガイドラインは十分な柔軟性を持っており、ボスニア・ヘルツェゴビナやブラジル、カンボジア、インド、レソト、ネパール、南アフリカといった地域で、管理の多様さや土地保有のシステムといった現地の条件に合うように適用させることができることをこのプロジェクトは示した。
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本レポートでは、採集者、地元の組織、資源管理当局、産業界といった地域のあらゆる関係者が、開始当初からパートナーとして関与することや、製品に「付加価値」を与え、伝統的な知識を持つ人々へ公平に利益を分配するために考案された方法を用いて、採取された製品を販売するための確実で現実的な市場が開発されることの重要性についても指摘している。
適切な人材や資金が、野生植物の資源評価、採集のモニタリング、採集・加工技術および現地のプロジェクト従事者の訓練や、もっとも大切な伝統的知識の保護や利益の共有に割り当てられるべきである。
「BMZ(ドイツ経済協力開発省)が資金提供している「Saving Plants that Save Lives and Livelihoods(生命と生活を支える植物を守る)」プロジェクトは、人類の将来のために野生の植物を管理するための、言葉を行動に移す重要な一歩を踏み出した」とディルク・ニーベル経済協力開発ドイツ連邦大臣は言う。 「トラフィックを支援することで、野生からとられる重要な野生植物資源の保全に貢献し、地域の人々の生活や利益を改善することができたことを、今度の生物多様性条約会議に先駆けて示すことができることは喜ばしい。」
この調査で評価がおこなわれた「野生の薬用・アロマティック植物の持続可能な採集に関する国際基準(ISSC-MAP)」は、薬用・アロマティック植物の公平な取引を確保することを目指す現行のフェアワイルド・ファウンデーションの基準に統合された。野生から採集された天然原料を持続可能な形で管理・取引することを目指すフェアワイルド基準の新しいバージョン2.0は、9月8日に発表されている。(注)
「薬用植物資源の持続可能な利用を保証するためにドイツが継続的に協力してくれたことは、特に資源に頼って暮らす人々がいる国において、保全と開発援助政策が融合するモデル事例である」とWWFのグローバル・スピーシーズ・プログラムのディレクターであるCarlos Drews博士は言う。
「新たに作られたフェアワイルドのガイドラインは、広範囲なシナリオの中での採取・管理体制を支持するための非常に重要な手段であり、世界規模の保護団体による挑戦である」とIUCNの生物多様性保全グループのディレクター、Jane Smart氏は言う。
注
プロジェクトは「薬用・アロマティック植物の野生からの持続可能な採取に関する国際基準(ISSC-MAP)」の実施について調べたものである。ISSC-MAPはその後拡大されたフェアワイルド基準に完全に組み込まれることになった。新たに改正されたフェアワイルド基準は2010年9月8日にすでに発表されている。(詳しくはこちらhttp://www.trafficj.org/press/medicinal/n100909news.html)
地域の人々の生活や野生の植物の多様性の保全を支援するフェアワイルド基準の貢献について、名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(2010年10月18日~29日)の際に、会議参加者向けのサイドイベント ( http://www.cbd.int/register/side-events/view.aspx?id=1761 )、およびどなたでも参加いただけるセミナーが開催されます( http://www.trafficj.org/press/medicinal/j100909event.html )。
■本件に関するお問合せ:
トラフィック イーストアジア ジャパン 金成かほる Tel:03-3769-1716
TRAFFIC International、Richard Thomas(Communications Co-ordinator)
Tel: +44 (0)1223 277427、Fax: +44 (0)1223 277237、Email: richard.thomas@traffic.org
■ レポートはこちらからダウンロードできます。『Wild for a cure: ground-truthing a standard for sustainable management of wild plants in the field(野生植物の持続可能な管理の基準:フィールドにおける実証)』
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