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世界植物保全戦略と、民間セクターのかかわり:フェアワイルド認証は世界植物保全戦略に不可欠である

2010年09月08日
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 トラフィックは10月に開催される第10回生物多様性条約締約国会議(CBD COP10)において、野生の薬用植物の持続可能な利用をめざす取り組みである、フェアワイルド基準について紹介します。フェアワイルドがどのように生物多様性の保全に貢献できるのか、という問いに答えるため、CBDのニュースレター[square brackets]にトラフィックが寄稿した原稿をご紹介します。

※トラフィックは10月に名古屋で開催される生物多様性条約において、野生の薬用植物の持続可能な採集やフェアワイルド基準に関するイベント開催を計画しています。詳しくはこちら。


世界植物保全戦略と、民間セクターのかかわり

フェアワイルド認証は世界植物保全戦略に不可欠である

Britta Paetzold, TRAFFIC/WWF Germany
Anastasiya Timoshyna, TRAFFIC Europe

 長期的な植物資源の保全を目指す戦略では、民間セクターの担う役割をより重要視するようになってきている。生物多様性条約(Convention on Biological Diversity:CBD)の世界植物保全戦略(Global Strategy for Plant Conservation: GSPC)の目的5cは、多様な植物の持続可能な利用と、それを糧とする人々の生活の確立、そして植物の利用により生じる利益の公正・公平な配分の促進に焦点をあてている。一方、フェアワイルド基準(FairWild Standard)のような仕組みは、企業やそのほか関係者がその取り扱う野生植物が持続的かつ倫理的に公正な方法で採取されたものであることを証明し、それらの植物が使われた製品の利用を促進するための、明確な原則や基準を提供している。このようにして、フェアワイルド基準は世界植物保全戦略の目標3、11、12、13の達成を助ける重要な手段となっている。

 フェアワイルド基準は、スイスに本部を置く民間非営利団体であるフェアワイルド・ファウンデーションによって維持・実施されている。フェアワイルド基準の生態学的(エコロジカル)な側面には、TRAFFICとWWF、ドイツ連邦自然保護庁(BfN)、IUCN薬用植物専門家グループ(IUCN Medicinal Plants Specialist Group)、その他パートナーと協力して開発した「薬用・アロマティック植物の野生からの持続可能な採集に関する国際基準(International Standard for Sustainable Wild Collection of Medicinal and Aromatic Plants:ISSC-MAP)」が使われている。ISSC-MAPは、第9回生物多様性条約締約国会議向けに世界植物保全戦略の進捗状況を見直した際に、植物保全報告書2007(2007 Plant Conservation Report)の中で大きく紹介された。2008年にはISSC-MAPは、2つのイニシアチブの統合を通じてフェアワイルド基準の一部となった。

 ISSC-MAPの原則や基準は、4つの大陸の異なる統治のシナリオにおいて、多様なプロジェクトを通して有用性が実証されており、最近では複数の国家レベルの野生植物採集に関する管理手法を構築するのにも貢献している。インド国家薬用植物委員会(The National Medicinal Plants Board of India)によって作成された「薬用植物の優良な野外採取プラクティスに関する基準(Standard for Good Field Collection Practices of Medicinal Plants)」や、南アフリカとレソトのPelargonium sidoides(訳注:フウロソウ科の植物)に関する生物多様性管理計画やカメルーンのアフリカンチェリーPrunus africanaに関する国家管理計画などはそうである。

 フェアワイルド基準の持続可能な野生植物の採集に関する信頼できる原則や基準は、世界植物保全戦略および現行の「遺伝資源の利用から生じた利益の公平な配分(Access and Benefit-Sharing:ABS))の規定をもとに、生態的(エコロジカル)・社会的・公正な取引の要件を組み合わせたものである。責任あるビジネスプラクティスを盛り込んだ、持続可能な野生植物の採集、管理の比類なき手段として、フェアワイルド基準は野山から陳列棚にいたるまで取引過程の透明性とトレーサビリティーを確保するための基盤を提供している。フェアワイルド認定ラベルの下、第三者機関によって認証されるという選択肢は、民間セクターにとって特に魅力的である。地域社会や産業界が、自分たちの採取方法がフェアワイルド基準の条件に見合ったものであることを確認し、それを広く一般の人々に伝えることを実現する。そしてそれは、世界植物保全戦略とABSの原則の遵守につながるのである。

 私たちは、自主的な内部基準やフェアワイルド認証の取り組みへの民間セクターの参加は世界植物保全戦略を支える上で不可欠な要素だと考えている。長期的な視点で、持続可能な調達の実施に民間セクターの関係者が関わることは、野生植物資源の保全を目指す戦略にとって不可欠だと認識されている。特にこの民間セクターの関与という面で、フェアワイルド基準の実施は、例えば、世界植物保全戦略の目標12の施行の成果を長期間にわたって追跡することを可能とするような、以下のような項目が増えていることを計測する手段を提供することで、世界植物保全戦略を支援することになる。

• 持続可能な野生植物の採取を立証できる基準を満たす製品
• 持続可能な野生植物の採取に関する適正実施(グッドプラクティス)基準を採用する企業や産業団体

 フェアワイルド基準(FWS)の施行と認証に関心を寄せる企業の数は増えていて、最初に認定を受けた製品はすでにEU、米国、そしてカナダの市場に出回っている。野生植物資源の持続可能な利用による収入機会の増加を目指す地域社会を基盤としたプロジェクトから得られた経験が、市場とのつながりの大切さを教えてくれている。購入側の企業が、支援や購入という形で関わることは、フェアワイルドのような基準の遵守を生産者に促す何よりの説得材料なのである。CBDで示されたように、野生植物の持続可能な管理には、政府・科学・民間分野といった異なる主体からの参加を含め、多様なレベルの多様な関係者による取り組みが求められる。

 この一例が、地域社会に根ざし天然薬用原料を採取・加工する団体AVIVE (www.avive.org.br)が参加している、ブラジルのシルヴェスにおけるフェアワイルドを実践するプロジェクトである。フェアワイルド認証品の長期的な購入を希望するブラジルのバイヤー企業と契約が交わされた。プロジェクトを進める中で、コミュニティに根ざした資源管理の仕組みや利益共有の協定が作りあげられた。また参加型の取り組みの中で、信頼できる企業、政府機関、そして学術専門家が協力し、アマゾン地域一帯に適用できる薬用植物の持続可能な利用のモデルづくりが進められている。

 現在のフェアワイルド基準実施のプロジェクトの数々は、トラフィック(www.traffic.org)が支援し、フェアワイルド基準の原則やガイドライン資料を将来的に適用する際のモデルとなることが期待される。

 さらなる情報はこちら:トラフィックは野生生物の取引を監視ネットワーク:www.traffic.org; フェアワイルド基準(FWS):www.fairwild.org


注: [square brackets]に掲載されている記事の中の意見は著者の意見であって、必ずしも生物多様性条約や条約事務局および締約国の意見を反映しているとは限りません。

引用:CBD Secretariat. (2010). Global Strategy for Plant Conservation and Private Sector Engagement. In: [square brackets] Issue 3 (CBD Newsletter for Civil Society). P. 8

2010年09月08日
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