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自然保護活動を支援する日本企業が薬用植物プロジェクト現場訪問-ベトナム

2013年12月09日
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写真:上から:バックカン省の街並み、視察団-地元当局と会談・植樹、タイ族採集者の自宅訪問
すべて©トラフィック

【2013年10月】

 16名の代表者からなる経団連自然保護協議会の視察団が10月、ベトナム北部でトラフィックがおこなっているコミュニティ主体のプロジェクト地を訪れた。地域住民が野生植物の利用から利益を得るための、持続可能な採集と公正な取引の仕組みづくりを実践している。

 経団連自然保護協議会は、毎年、会員の日本企業から参加者を募り、支援しているアジアのプロジェクトの現地視察をおこなっている。参加者は、自社の寄付が自然保護の現場でどのように生かされているのかを、実際にプロジェクト地に出向き知る機会を得る。

 「過去に視察をおこなったプロジェクトは、希少種の保全活動や森林の再生事業など、自然保護を優先的にフォーカスしたものが多かったと思う」と、経団連自然保護協議会、事務局次長の松本邦康氏は述べた。    

 「しかし今回は、人々の生計という側面にも注目した。NGOがどのように地域コミュニティと協力し、複雑に絡み合った自然保護と農村の生活の問題解決に取り組んでいるのか、その現場を見たかった」

 経団連自然保護協議会は、経団連自然保護基金を通して、ベトナム北部のバックカン(Bac Kan)省、チョドン(Cho Ðon)郡に位置する南シュアンラック種・生息地保護地区(South Xuan Lac Species and Habitat Conservation Area)でトラフィックが実施している野生の薬用植物の持続可能な採集のプロジェクトを支援している。

 トラフィックのプロジェクトは「持続可能な採集」と「公正な取引」の原理を応用し、森林資源のひとつである薬用植物に収入を頼っている少数民族の生計の向上に役立てようとしている。このような取り組みが注目され、今回の視察先として選ばれた。

 「日本はかつて産業発展を追求する過程で、豊かな自然や固有の生物多様性の多くを失ってしまった」と、経団連自然保護協議会の会長で視察団長を務めた佐藤正敏氏は述べた。

 「今後、バックカンのように豊かな自然の残る地域が、持続可能で自然と調和した発展を遂げられるよう、アジア諸国における環境保全活動を支援することは我々の務めと考えます」

 2004年に設立された南シュアンラック種・生息地保護地区は、1,788haにわたり、地域には古くからベトナム北部の貧しい山間部に居住してきた少数民族のタイ(Tay)族、ヌン(Nung)族、ザオ(Dao)族、フモン(H'Mong)族が生活している。地域コミュニティのほとんどが生計を森林資源に頼っていて、中でも木材の伐採、ブッシュミート(野生動物の肉)のための狩猟、農地の開発、薬用植物を含む非木材の林産物の採集などが日常的におこなわれている。

 この保護地区は、ナハン(Na Hang)自然保護区とバーベー(Ba Be)国立公園を結ぶ重要な環境上の回廊(自然環境をつなぐもの)の役割を果たしていて、その生物多様性の豊かさでも知られている。生息環境は、典型的なベトナムの北部石灰岩(カルスト)山地生態系で、12種の世界的に絶滅のおそれのある種を含む多くの野生動植物の生息地となっている。トラフィックが2011年に当プロジェクト地域でおこなった資源評価では、328種の薬用植物が確認されている。これらの多くは、地域住民による持続可能ではない採集や市場からの高い需要により、危機に瀕している。

 この多年プロジェクトは、既にシュアンラック地域の7つの集落とバンティ(Ban Thi)村の採集者と協力して成果を上げ始めている。2011年6月から2013年7月には、クリティカル・エコシステム・パートナー基金(CEPF)からの支援を受けていた。

 訪問の一環としてプロジェクトのパートナーであるバックカン森林保護局(Bac Kan Forest Protection Department:FPD)とバックカン伝統薬協会(Bac Kan Traditional Medicine Association)との交流の場がもたれた。

 バックカン森林保護局長で南シュアンラック種・生息域保護地区会長を務めるホアン・ヴァン・ハイ(Hoang Van Hai)氏は、視察団を歓迎し、バックカンの豊かな森林資源と生物多様性が地域の経済と人々の健康に重要な役割を果たしていると述べた。また、トラフィックのプロジェクトが薬用植物の採集現場で目に見えた成果を上げ始めていることを強調した。

 視察団は他にも、プロジェクトの始動当初から参加しているタイ族の採集者フン・ティ・ズン(Phung Thi Dung)氏の家庭を訪問し、氏より、事業に欠かせない植物の乾燥機の紹介を受けた。製品を乾燥させることにより販売価格の増加を図るため、トラフィックが提供したものだ。トラフィックは現在、この他にも、ショウガ科のAlpinia属やAmomum属の数種を対象に、採集者の収入を増加させるための「付加価値追加」の可能性を調査している。

 最後に訪れたチョドン郡バンルン(Bang Lung)市では、シュアンラック地域から薬用植物を購入し、国内市場への販売や中国に向けた輸出をおこなっている取引業者グループの代表、チュン(Trung)氏を訪ねた。氏は、地域の採集者の生活の向上というプロジェクトの目的への賛同を示し、また、製品がフェアワイルド認証を受けることができたら、取引業者としても、販売のオプションを増やし、新しい購入者の開拓などにもつながるかもしれないと述べた。

 一連の視察を通して、ベトナムで利用されている薬用植物のほとんどが、農村で暮らす少数民族の個人採集者たちによって生産されているということ、そして、これらの植物から成る製品のほとんどが、一度中国へ輸出されてからベトナム国内の卸売業者や小売業者に流通しているという事実が共有された。

 「国内の製薬会社は、品質が高く、持続可能な形で調達された野生の植物製品に興味を持っています」と、トラフィックのグレーターメコン・プログラムの森林取引オフィサーであるマイ・ングイェンは言う。

 「我々の目標は、フェアワイルドの原則を応用して持続可能で公正な取引のモデルをつくることです。それを基盤に、最終的には、地域コミュニティが、自分たちで資源を管理し、公正な取引関係を築くことによって、利益を得られる力を身につけることです」

 経団連自然保護基金の支援は、トラフィックの薬用植物事業にとって非常に重要である。2013年度、トラフィックは、ベトナムに加えて、インドと日本の計3つのフェアワイルド推進プロジェクトの支援を受けている。インドでは、西ガーツ地域北部で、Applied Environmental Research Foundation (AERF)という地域のパートナー団体と協働で、2種の樹木の果実において地元の採集コミュニティとイギリスの製造業者をつなぐフェアワイルド基準・認証制度の実施プロジェクトをおこなっている。また、日本においては、日本市場でのフェアワイルド普及に向けた戦略作りのプロジェクトを実施している。経団連自然保護基金は特に日本のフェアワイルドプロジェクトの長期的支援者で、過去には名古屋で開催された生物多様性条約(CBD)の第10回締約国会議(CoP10)における持続可能な採集と生計に関する普及啓発活動、インドの採集地への企業訪問などを支援している。


経団連自然保護基金の過去の支援プロジェクトの詳細に関して:

1.http://www.trafficj.org/press/medicinal/n101022news.html

2. http://www.trafficj.org/press/medicinal/j110705news.html

3. http://www.trafficj.org/press/medicinal/j120215news.html

フェアワイルドに関して:

http://www.fairwild.org(英語)

http://www.trafficj.org/theme/medicinal/fairwild/(日本語)

CEPFの支援による2年間のプロジェクトに関して(英語のみ):
http://www.cepf.net/grants/project_database/indo-burma/Pages/strategic_direction_2.aspx

2013年12月09日
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© R.Isotti, A.Cambone / Homo Ambiens / WWF

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