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【CBD-COP10】先の見えない古代交易:香木取引の未来 : 新レポートをCBD-COP10にて発表

2010年10月20日
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high-grade-agarwood-pieces-James-Compton-TRAFFIC.jpg©James Compton / TRAFFIC

【名古屋発 2010年10月20日】

 沈香(ジンコウ)の需要増加により、採集のモニタリングの問題と起こり続けている違法取引が、 非常に珍重されている香木の未来を脅かしているとする二つの報告書がトラフィックより発表された。

 新しい報告書は、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)が開催されるなか、名古屋 (日本)で発表された。沈香の持続可能で合法的な取引の確保と違法で破壊的な採集行為との戦いへの提言は、世界植物保全戦略(Global Strategy for Plant Conservation: GSPC)を強化する手段となる。 強化された世界植物保全戦略は、今週、加盟国の間で集中的に議論される予定である。沈香は、外的要因によって木質に樹脂が沈着したもので、アジアにだけ生育する樹木種にみられる。沈香は、アジアや中東で香りや香料、伝統薬として数世紀にわたり利用され、珍重されてきた。

 今日、少なくとも18ヵ国によって数百トンの沈香が毎年取引されている。公表された2005年の国 際取引量の半数が、マレーシアを原産としていた。沈香の国際取引は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(the Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora : CITES)の許可制によって規制されている。

 
1467551-9028258-thumbnail.jpg  ©James Compton / TRAFFIC

日本や台湾、サウジアラビア、アラブ首 長国連邦といった国々の消費市場の豊かさや人口の増大が、過去30年以上の間急増する需要を生み、 結果として野生における資源量の急減、価格上昇、将来にわたる供給の懸念などを導いている。

 通常、価値のある沈着した樹脂部分を探すために樹木全体が伐採されるが、たった10%の樹木にの みに沈着しているため、これは非常に効率の悪いやり方である。老齢樹の過剰伐採は、利用できる沈 香の量も質も下げることを招く。今日、マレーシアで確認されている18種の沈香を生産する樹木の うち、7種が世界的な絶滅の危機にさらされている。

 

 「保護区においても、沈香の沈着する樹木が奪われることが頻繁に起こり、地域社会にとって持続 可能な収入をもたらす、適正に管理された採集の機会が失われている」とトラフィックのアジア太平 洋プログラムの事務局長ジェームス・コンプトンとアラブ首長国連邦に関する報告書の共同著者は言 う。

 保全に関する適切な法体制や、取引に供するための栽培沈香の開発への動きは、原産国が自国のか けがえのない生物多様性の保全を助けるために、ただちに考慮すべき措置である。

 
101020agarwoodreport.jpg  

 報告書『Wood for the Trees: A Review of the Agarwood Trade in Malaysia(マレーシアにおける沈香取引調査)』は、違法伐採と合法伐採に関する効果的な管理の欠如がこの問題の主要な原因であること を明らかにした。しばしば保護区での沈香を採集するために違法にマレーシアへ入国する外国人コレ クターが、この問題を悪化させている。1992年から2005年の間、約200件の逮捕があったにもかか わらず、マレーシアでは違法な採集は減少していない。

 「沈香の市場価値の高さから、森林保護区において長い時間をかけて違法な採集者グループが組織 されることになった」と、マレーシアに関する報告書の共同著者であるトラフィックのNoorainie Awang Anakは言う。「森の中での副次的な収入として、彼らが食べ物のために野生動物を密猟した り、そのほかの価値の高い種を採集している」。取引記録の不一致もまた、深刻な問題である。1995 年と2002年の間、マレーシアから輸出された沈香の半数以下がCITES輸出許可書を必要とするもの であった。マレーシアのCITES輸出割当量は最近(2010年)では、野生由来の資源をもとにした粉 末と小片(ウッドチップ)に対して年間200tであった。

 マレーシアやインドネシアは、世界でもっとも大きな沈香市場のひとつであるアラブ首長国連邦へ の主要な輸出国である。2004年と2007年の間、アラブ首長国連邦への沈香の小片の輸入は、約 300%増の56tから167tへ急増していることが報告されている。CITES取引データの分析によると、 さらに、原産国としてマレーシアやインドネシアと記載された沈香の積荷は、シンガポールとインド からアラブ首長国連邦へ送られたものがもっとも多いことが示された。

 中東への沈香の再輸出国でもあり、重要な世界的な消費市場であるアラブ首長国連邦の規則につい ては、二つ目の報告書『The Trade and Use of Agarwood (Oudh) in the United Arab Emirates(アラブ首長 国連邦における沈香の取引と利用)』の主題である。

 報告書は、取引業者の登録などを含む取引を監視するためにアラブ首長国連邦政府によって施行さ れるステップを特定している。しかし、特に個人の手荷物によって運ばれる沈香やそのオイルなど、 沈香の様々な形態による取引をコントロールすることの困難さも指摘している。ワシントン条約の輸 出許可書の不備を理由にドバイ空港で押収される多くの沈香は、インドから到着した個人の手荷物の 中から発見されている。

 トラフィックは、アラブ首長国連邦へ持ち込まれる個人の手荷物のモニタリングと免税制限の設定 を提言し、さらに生産国と消費国に世界的な取引の管理に関して共同運用を設けることを要請する。

 「アラブ首長国連邦のさらなる仕事は、マレーシアやシンガポール、インドネシア、インドなどの 重要な取引相手国と連動することで、規制や法体制に関する課題への取り組みの助けとなるだろう」 と、コンプトンは言う。

 沈香の取引は、今年の3月にドーハ(カタール)で開催された第15回ワシントン条約締約国会議 において重要な検討課題のひとつであった。そして、取引管理の効率化や持続可能なアセスメントの 促進、取引国間における連携の強化について約束された。

 この二つの報告書は、沈香の大きな消費国のひとつである日本の名古屋で現在開催されている生物 多様性条約CBDの保護区管理に関するイベントにおいて発表された。

 

2つのレポートはこちらでダウンロードできます。

『The Trade and Use of Agarwood (Oudh) in the United Arab Emirates(アラブ首長 国連邦における沈香の取引と利用)』

『Wood for the Trees: A Review of the Agarwood Trade in Malaysia(マレーシアにおける沈香取引調査)』

 

注:

* 沈香は、アクイラリア属Aquilariaの木質に沈着する芳香性のある樹脂の総称である。この価 値ある製品は、マレーシアやインドネシアではガハル(Gaharu)など様々な名称で知られてい る。日本では、お線香や香道に利用される。
* マレーシアとアラブ首長国連邦における沈香取引に関する報告書は、CITES事務局による委託 を受け、さらにthe UK Foreign and Commonwealth Officeとthe US Department of State's Bureau of Oceans, Environment and Science.による支援を受け作成された。アラブ首長国連邦におけるサポ ートとして、WWF-UAE とthe Emirates Wildlife Societyに感謝する。
* 沈香に関する専門家グループ会合による法執行に関する提言は、下記よりダウンロードが可能 です。    http://www.traffic.org/forestry-reports/traffic_pub_forestry15.pdf  

日本における沈香市場に関する詳しい情報は、下記を参照ください。
http://www.cites.org/common/com/PC/15/X-PC15-06-Inf.pdf


■本件に関するお問合せ:
James Compton, TRAFFIC's Senior Programme Director for Asia TRAFFIC International, Tel: +852 530 0587, Email: James.Compton@traffic.org
Noorainie Awang Anak, Programme Officer, TRAFFIC Southeast Asia, Tel: +603 7880 3940, Email: naatsea@po.jaring.my
石原明子,トラフィック イーストアジア ジャパン, Tel:03-3769-1716

2010年10月20日
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