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ドナウ川流域のチョウザメを脅かすキャビアの違法取引

2011年12月19日
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111114Danube-Sturgeon.jpg ロシアチョウザメAcipenser gueldenstaedtii: 近絶滅種。ドナウ川流域に生息する他のチョウザメのように密漁による深刻な脅威にさらされている。 © naturepl.com /Frei / ARCO / WWF

【2011年11月14日】
 ドナウ川流域に生息する、極めて絶滅のおそれの高いチョウザメ類が絶えざるキャビアの違法取引によって危機にさらされている。新しくトラフィックが発表したレポートによると、こうした取引にブルガリアやルーマニアが関与しているという。

 ブルガリアとルーマニアには、欧州連合(EU)で唯一存続可能な野生のチョウザメの個体群が生息している。しかしドナウ川に在来のチョウザメ類6種のうち5種が近絶滅種(Critically Endangered)であるとされており、そこでのチョウザメの漁獲は禁止されている。

 新しいレポートによれば、2000年から2009年に14件あった違法キャビアの押収事例のうち、ブルガリアを原産とするものが5件(27.5kg)、ルーマニアが9件(25kg)、EU加盟国から報告されている。ブルガリアからもルーマニアからも、違法キャビアを押収したという報告はない。

 「ブルガリアとルーマニアは一件もキャビアの押収を報告していないにもかかわらず、両国が関与しているとみられるいくつかの押収事例が、他のEU加盟国の記録にみられる」とレポートの著者であるトラフィックのケイトリン・ケクセ-ナギーは言う。

 「発見された押収量はそれほど多くないが、違法に取引されている実際の量はさらにかなり多いと見込まれ、どの違法取引も、極めて絶滅のおそれの高い種に対して容認しがたい危機を及ぼすことを、私たちは心にとどめておかなければならない」とKecse-Nagyは言う。

 また、ルーマニアもブルガリアも2007年にEUに加盟しており、これによってEU内での違法取引をみつけることも防ぐことも難しくなったと、ケクセ-ナギーは指摘する。

 さらに、地理的な理由で、2つの国はカスピ海から持ち込まれた違法なキャビア取引の入り口となっている可能性がある。カスピ海はチョウザメ漁業にとって、世界的にみてももっとも重要な海域である。

 2009年には、ドイツ当局がEUに密輸入されたキャビアを押収した。これはブルガリアで養殖されたキャビアだとラベリングされていた。ブルガリアとルーマニアは養殖されたチョウザメからとれたキャビアの取引しか許可していない。しかし同位体分析をしたところ、このキャビアはカスピ海からとられたものだと証明された。

 「許可されたキャビアの養殖が、違法な出所からとられたキャビアを合法的に取引するためのロンダリングに悪用されていることが、この事例からわかる。」

 合法的な取引データの分析によると、ブルガリアでの、EU圏内を含む、輸出向けの水産養殖の生産量が大幅に増加している。

 「これは、違法取引が野生のチョウザメの脅威とならないよう、こうした地域内でのキャビア取引を注意深く管理することがこれまで以上に重要であることを意味している」とケクセ-ナギーは忠告する。

 ルーマニアでもブルガリアでも、違法なキャビア取引を取り締まる法執行機関の認識を高め、取引を管理・監視するための能力を強化することが、トラフィックのレポートで提言されている。

 「EUは、キャビア取引の規制をおこなうにあたって大きな責任がある。なぜならEUの加盟国は、ルーマニアからのキャビアの最大の消費国であり、ブルガリアからのキャビアについては2番目に大きな消費国であるからだ」とWWFのチョウザメ専門家ユッタ・ジャールは言う。

 「EUは、絶滅からチョウザメを救うため、いかなる抜け穴も塞がなければならない。」

 しかしジャールによると、違法なキャビア取引の脅威についてヨーロッパでの消費者意識は低く、本物の取引業者ですら、合法的なキャビアのラベリングについての要件についてほとんど知らないという。

 「極めて重要なのは、取引業者や消費者はラベルのないキャビアは買わないこと。この簡単な行動が違法取引に大きな打撃を与えるだろう。」

 本レポート『Trade in Sturgeon Caviar in Bulgaria and Romania(ブルガリアとルーマニアでのチョウザメのキャビア取引)』は、WWF、The Mohamed bin Zayed Species Conservation Fund、the Deutsche Bundesstiftung Umwelt (DBU)にご支援いただき作成されたものである。

 

日本として何をすべきか

 日本はキャビア輸入国である。このレポートでも1998年~2008年のルーマニアのキャビア輸出相手国上位3位に日本が名を連ねていることからも わかるだろう。ワシントン条約においては、決議12.7「チョウザメ並びにヘラチョウザメの保護および取引」において、適正な管理のもとキャビアが生産さ れたことを示す国際統一ラベリングシステムの導入を求めている。輸入、輸出、再輸出をおこなう締約国は、国内法を整備し、キャビア加工・再包装工場の登録 制度を設けなければならないこと、これらの情報をワシントン条約事務局に提出することが義務づけられている。しかし日本は一大消費国であるにもかかわら ず、いまだそのシステムが導入されていない。これが導入されることで、国内の消費者も適正に生産・流通されたキャビアを見分けることが可能になり、さらに は国内のチョウザメ養殖・加工生産者がワシントン条約にもとづいた適正な管理の下、輸出することができるようになる。日本は輸入国としての責任を果たすた め、早急に国内法を整備し、国際統一ラベリング・システムを導入すべきである。

 

さらに専門的な詳細に関してのお問い合わせはこちらまで

TRAFFIC: Richard Thomas, richard.thomas@traffic.org, direct +44 1223 279 068, mobile +44 752 6646 216
WWF: Olga Apostolova, oapostolova@wwfdcp.bg, direct +359 2 950 50 41, mobile +359 885 727 862

 

レポートのダウンロードはこちらから
『Trade in Sturgeon Caviar in Bulgaria and Romania(ブルガリアとルーマニアでのチョウザメのキャビア取引)』


注:

• チョウザメは、2億年前にその起源を発し、恐竜より長く生き続けている古代魚である。しかし今日、IUCNの絶滅のおそれのある種のレッドリストにおいてももっとも絶滅が危惧されている動物でもある。主にキャビアをとるための過剰漁獲が、最大の懸念要因ではあるが、チョウザメの回遊ルートの断絶、水力発電などの生息域の変化、汚染などが、さらにその原因となっている。世界チョウザメ保全協会(World Sturgeon Conservation Society)によれば、ドナウ川は、保護策が講じられているヨーロッパでも唯一の大きな河川系であるが、いまだチョウザメ資源は減少している可能性がある。

• キャビアは、その値段の高さ、希少性のゆえに、もっとも高価な野生生物製品のひとつとしてしばしば違法に取引される。ドナウ川に在来のチョウザメ種の中では、オオチョウザメ(ベルーガ)Huso huso が高価なキャビアとして有名である。チョウザメ・キャビアの取引は、極めてもうけのあがる商売である。キャビアの小売価格は、kgあたり6,000ユーロ(約62万円)以上になることもある。

• 黒海は、世界的にみて、カスピ海に次ぐもっとも重要なチョウザメ漁場のひとつである。ドナウ川は、黒海に注ぐ主要な支流および河口のひとつとして、チョウザメにとって極めて重要な河川である。野生由来のチョウザメの漁獲やその製品の輸出は、ルーマニアは2006年から10年間禁止、ブルガリアは現在1年間禁止しているところである。

• トラフィックのレポートではまた、キャビアの合法取引についても分析しており、こうした取引はこの地域全域にとって経済的に重要である。キャビアの直接輸出は、ルーマニアでは2000年、ブルガリアでは2006年にピークを迎えた。ルーマニアでは、報告されたキャビアの取引量は、10年間のチョウザメの漁獲・輸出禁止が始まった年である2006年にゼロとなった。

 

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©TRAFFIC

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