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附属書III掲載が撤回されミダノアワビの先行きは暗い

2010年06月22日
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100604abalone-Markus-Burgener-TRAFFIC.jpg © Markus Bürgener / TRAFFIC

【南アフリカ、ケープタウン発 2010年6月4日】
 トラフィックは、南アフリカ政府が自国の固有種であるミダノアワビHaliotis midae をワシントン条約の附属書 III から削除するという決断をしたことに対して失望感を表明した。2007年3月3日に附属書 III への掲載が効力を発し、その後国際取引されるミダノアワビの積荷すべてが、南アフリカによって発行されるワシントン条約の許可書を必要としていた。

 トラフィックのシニアプログラムオフィサー、マーカス・バーグナーは、perlemoen として広く知られているこの種は、これ以上国際取引の規制が必要なく取引に関連した脅威にさらされなくなった場合にのみ、ワシントン条約の附属書から削除されるべきであるとコメントした。「しかし、2007年にミダノアワビをワシントン条約に掲載する要因となった、アワビの密漁や関連の違法取引の高いレベルが減少したことを示すものはない。この種を附属書からはずす決定がされたのは、本種掲載を施行する上での深刻な欠陥に南アフリカが取り組むことができなかったことに起因しているとみられる。

 ワシントン条約の附属書への掲載による影響についての評価は、2008年および2009年にトラフィックが実施し、多くの重要な地域において、南アフリカ政府が附属書掲載を効果的に施行できておらず、これらの失敗は附属書掲載の効力を損なわせている可能性が非常に高いことを明らかにした。主な問題は、出口となる港において南アフリカの担当官がワシントン条約の許可書の承認を確実におこなうことができないことだった。「許可書の承認は、法執行の過程において必須要素であり、この失敗が許可書制度の潜在的な効力を深刻な危機にさらしている」とバーグナーは強く主張する。「承認されていない許可書を再利用することを通じて違法取引を容易にする可能性をもある。」

 もうひとつの問題は、密漁されたアワビがロンダリングされる近隣諸国や、主要な輸入国において、附属書掲載についての認識が不十分であることだ。「南アフリカは、附属書掲載が効果的におこなわれるためにはこれらの国々の助力をあてにした。また、南アフリカはこれらの国々のすべての関連部局にきちんとこの問題の緊急性について通達し、施行のための支援を提供すべきであった」とバーグナーは言う。

 「ワシントン条約は、南アフリカが大規模な違法取引に取り組むために他の国々から支援を確保できる唯一の実行可能な仕組みであった」と、さらにバーグナーは言う。「ワシントン条約の附属書掲載取り消しが、事実上、蔓延していたアワビの組織的な密漁と違法取引に南アフリカ自身で取り組まなければならない過去の状況に南アフリカを引き戻すことになる。取引のほとんどが国際的なもので、違法取引される量が非常に多い野生生物製品に対する、このような決定は理解しがたい。これはまさに、いわばワシントン条約の設立理由となっている野生生物の国際取引に関する問題である。」

 トラフィックは南アフリカに対し、ワシントン条約の附属書掲載を施行する際に直面する問題に取り組み、再びワシントン条約の附属書のいずれかへの掲載を再検討するという、可能性のある解決策について検討するよう強く要請している。「当局が産業界、漁業者、NGO、その他関係者と一緒に協力し、過去3年間の間に直面してきた問題を乗り越え、将来の取引管理をうまく実施し、効果的に運用できるような管理システムを作り出すことを、私たちは望んでいる。」

  ミダノアワビの附属書 III からの削除は2010年6月24日より効力を発する。

 

■詳細に関するお問い合わせ Marcus Burgener, Senior Programme Officer, TRAFFIC,
e-mail: m.burgener@sanbi.org.za, tel: +27 21 712 3540

注:
 アワビとは、ミミガイ科 Haliotidae の巻貝の総称である。南アフリカに生息するアワビのうち、ミダノアワビ1種のみが商業的に採集されている。ミダノアワビは性成熟するのに8年かかり、採集に適した最小の直径115mmに育つまでにさらに4年かかる。採集がはじまったのはおよそ6000年前にさかのぼり、1960年代後半に東アジアの市場で珍味として求められるようになった結果、ミダノアワビ資源が過剰に採集されはじめた。アワビの身の取引は生きたもの、冷凍、缶詰、乾燥した形で取引される。しかし催淫薬として売られたり、貝殻は灰皿、ソープディッシュ、食べ物を盛る皿としても人気がある。南アフリカの国内での消費はほとんどなく、漁獲された95%以上は香港、中国本土、日本、マレーシア、韓国、フィリピン、シンガポール、台湾に輸出される。

 ミダノアワビの商業的な採集がはじまったのは1900年代の中期にさかのぼる。1965年に3,000 t 近くの漁獲があった時がピークであった。アワビは、南アフリカでとれるシーフード製品の中でもっとも高い値段がついている。商業的な採集は沿岸の地域住民数百人にとっての直接的な雇用機会を提供していた。2004-2005年の漁期の間に、アワビ産業は漁業権を持つおよそ300人を養ってはいるが、加工、輸送、販売といったその産業を支えている漁業者以外の人々や、彼らの扶養家族らはそこに含まれていない。違法な採集を主な理由として野生の資源量が減少したため、ミダノアワビ漁獲可能量(TAC)は1995年の615 t から、2006年7月の漁期には75 t 、2007年8月の漁期には75 t に縮小させられた。2008年2月には、南アフリカは漁業の禁止という前例のない措置をとった。

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