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トラフィックのポリシーダイレクターであるサブリ・ザインが 「市場の撲滅」という全体会合において、強力な執行抑止力に裏付けされた 行動変革による消費者の需要の削減について講演した。©James Compton/TRAFFIC |
【ベトナム、ハノイ発 2016年11月18日】
ハノイで開催された、違法な野生生物取引に関する国際会議に出席した40カ国以上の代表は、世界的な野生生物犯罪に対抗するための将来的な計画と支援を要約した共同声明を発表した。
2014年に英国、ロンドンと2015年にボツワナ、カサネで開催された同様の会議で立てられた誓約に続き、ハノイ声明は、参加した42カ国の政府による国ごとの誓約を含めることにより、さらに一歩踏み込んだものとなった。
「この会議の誓約を、国レベルでの具体的で、期間を定めた取り組みに変えた国々は称賛されるべきである」と、トラフィックのポリシーダイレクターであるサブリ・ザイン(Sabri Zain)は述べた。「これらの誓約を実際の行動に移すためには、政府、優れた民間セクター、政府間機関、NGOによる協力が不可欠となるであろう」。
多くの国が、この声明の効果的な施行に向けて追加の資金提供に貢献することを誓約した。「野生生物犯罪と闘う国際コンソーシアム(The International Consortium on Combating Wildlife Crime:ICCWC)」の取り組みとその「Wildlife and Forest Crime Analytic Toolkit(野生生物および森林犯罪分析ツールキット)」の施行支援のための資金的な誓約もなされた。
違法な野生生物製品に対する需要の削減を目指した誓約には、現行の取り組みを続けることが含まれた。例えば、WWFとトラフィックの主導により、英国政府が実施した主要な需要削減に関する調査プロジェクトで得られた結果の公表などにより、より実質的な誓約を通じ、ベトナムにおいて、意識を向上させることである。ドイツは、トラフィックが始めたWildlife Consumer Behaviour Change Toolkit(野生生物に関する消費者行動変革ツールキット)の枠組みの中の需要削減の取り組みを支援することを約束した。また、中国は、旅行者、インターネットや物流企業との協働を通じて、広報と啓発を強化することを誓約した。
法執行の分野において、ボツワナは、他の南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community :SADC)の国々とともに、2017年までにWildlife Exchange (TWIX)の「SADC取引」の開発に取り組む予定である。これは、国境を越えた野生生物犯罪の調査に関わる管理当局の間における情報交換と協力を強化するための電子情報システムである。カメルーンは、トラフィックとWWFとともに、PAPECALFの施行強化に取り組むことを誓約した。PAPECALFは、中央アフリカ森林協議会(Central African Forests Commission: COMIFAC)の10カ国のメンバー国における野生生物に関する国内法の施行強化に向けた小地域行動計画である。
しかし、国々から、国内の違法な野生生物市場の閉鎖や、トラやクマの飼育施設の段階的な廃止などの数多くの重要な課題に関する誓約がほとんどなされなかった点については失望もあった。例外として、ラオスは、今年9月に南アフリカ共和国で開催された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の締約国会議で示したトラ牧場を閉鎖するという意向を、副総理が繰り返し述べた。
この会議に先立ち、特に、ベトナム政府は、犀角、象牙、トラの部位の取引を厳重に取り締まるための具体的な措置を発表するよう、国際的な圧力の高まりにさらされてきた。今週初め、Wildlife Justice Commissionは、公聴会を開催し、同機関が野生生物の犯罪組織の行動に関する「ケースファイル(map of facts)」を提供した後も、犯罪組織に対抗するためのベトナム政府の行動が不十分である点を強調した。
ベトナムは、国内市場を厳格に監視し、違法な野生生物取引拠点を撲滅し、「野生生物保護に関する法的文書および条例文書を調和させる」と誓約した。しかし、違法に野生生物を捕殺あるいは野生生物・野生生物製品を取引したことで有罪となった人々に対し、より厳しい刑罰を科す新たな刑法の迅速な制定を含むかどうかは不明確である。ベトナム政府がいつ刑法案をまとめ、施行するかは不明であるが、トラフィックは、刑法案の中で、違法な野生生物取引を重大な犯罪として強調しているベトナムの姿勢については歓迎する。
野生生物犯罪に対抗するための国際的な機運が増しているにもかかわらず、世界的な密猟危機と違法な野生生物取引の急増には衰えの兆しがほとんど見られない。これは、多くの国が自国の誓約に沿って行動していないことが主な原因である。昨年、アフリカでは少なくとも1,377頭のサイと約20,000頭のゾウが密猟された。センザンコウは、東南アジアとアフリカから大量に取引の対象となり続けている。さらに、インドでは今年、密猟により76頭のトラが失われたが、これは2010年以降最も多い数となっている。
ハノイ会議は、今日、ハノイ声明の施行に関する関係者会議と、違法な野生生物製品の市場を撲滅し、効果的な法的枠組みを担保し、施行と持続可能な生計を強化するために必要となる次の段階を考察するセッションをもって終了した。
ワシントン条約の第17回締約国会議から1カ月あまり経ち、トラフィックは、ハノイ声明で誓約された行動の多くが、需要削減、反汚職or反腐敗/腐敗防止、サイバー犯罪、専門の法執行技術の活用などの課題に対処するために、締約国会議において採択された画期的な決議および決定を実行に移しているものであることを評価している。
「ハノイで議論された4つの行動の流れでは、違法な野生生物取引の複雑さに対処するためには、多重なor あらゆる手法の活用が非常に重要であることが強調された」と、トラフィックのアジア地域シニア・ダイレクターであるジェームス・コンプトン(James Compton)は述べた。「例えば、消費者の需要を削減するための行動変革の取り組みは、効果的な法執行による違法な行動の抑止なしには効き目がない。立法化された法律文書と規制の仕組みには、不遵守への適切な刑罰が含まれ、野生生物犯罪の完全な捜査と訴追が可能となる必要がある。さらに、違法な野生生物取引の最前線で暮らしている地域社会が支援され、自然資源の保護者として有意義な形で参加する必要がある」。
英国は、2018年にロンドンで違法な野生生物取引に関する第4回目のハイレベル会合を主催することを申し出た。ハノイにおいて、ケンブリッジ公ウィリアム王子殿下は、「ロンドン会議以降の著しい進捗にもかかわらず、現在のところ、勝っているのは取引業者であり、賭けをおこなう人がいるとすれば、絶滅するという方にお金を賭けるだろう」と述べた。
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