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【イベント開催報告】アフリカゾウとサイ-密猟の危機を知る~私たちの暮らしを支える世界の生物多様性~

2014年10月17日
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 トラフィックイーストアジアジャパンは、10月7日東京港区にて、トラフィックでゾウ・サイプログラムリーダーを務めるトム・ミリケンによる講演『アフリカゾウとサイ-密猟の危機を知る』を開催した(共催:港区立エコプラザ)。

 近年、アフリカにおけるゾウとサイの密猟の急増が深刻な国際的課題として世界で注目を集めているが、日本でこれを耳にする機会は多くない。しかし、日本もかつては象牙と犀角(サイカク)の主要消費国として、アフリカゾウやサイに多大な影響を与えていた時代があった。1980年にワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)に加盟し、規制遵守と需要削減に取り組んだ結果が現在の日本である。

なぜ、密猟の危機が再燃してしまったのか。そして、日本の歴史から学ぶべきことは何か。1980年代の日本でワシントン条約の実施体制の整備に尽力し、その後はアフリカを拠点に、計30年以上ゾウとサイの違法取引の問題に携わってきたトム・ミリケンが解説した。

◆アフリカゾウの話

 ワシントン条約のゾウ違法捕殺情報システム(MIKE※1)によると、過去4年間のゾウの密猟の圧力は、自然な繁殖率を上回るレベルにあると推計され、危機的状況が続いている。過去10年間で個体群が60%以上激減したと推測される中央アフリカに続き、東アフリカにおいても状況は悪化しており、さらには、アフリカゾウ個体群の大部分を有する南部アフリカにまでも密猟の波が迫っている。

 ミリケンは、MIKEと並んでワシントン条約の意思決定をサポートするゾウ取引情報システム(ETIS※2)のディレクターを務める。ETISには、1989年から現在まで2万件を超える象牙の押収のデータが世界各地から集積されている。「2009年から違法取引量が年々増え始め、2011年にはETISの監視が始まって以来の最高レベルを記録した。2009年の押収量と比べて倍増、1998年と比べると3倍にもあたる量である。MIKEとETISの両方が警鐘を鳴らしている」 と、ミリケンは言う。

 密猟の原因は何か。MIKEの報告によると、地域レベルでは、密猟は貧困の深刻さとガバナンスの弱さに関係することがわかっている。更に国際レベルの分析から浮かび上がってくるのは、需要との関係、中でも中国における消費力との強い相関だ。これに加え、近年の違法取引の特徴として、国際的な犯罪組織の関与を意味する大規模(500kg以上)な押収の増加が確認されている。

 ETISが示す傾向にもとづき、ワシントン条約では2013年3月バンコクで開催された第16回締約国会議にて、違法取引への関与度の高い8カ国が行動計画の策定と実施を求められ、今年6月にジュネーブで開催された第65回常設委員会でその進捗状況の報告がおこなわれた。8カ国に名を連ねているのは、ゾウ生息国であるケニア、タンザニア、ウガンダ、中継地としてマレーシア、フィリピン、ベトナム、そして最終消費市場として中国とタイである。

 「歴史を遡ってみると、日本は1980年代前半まで象牙の一大消費国だった。輸入量がピークにあった1983-1984年のたった2年間の間に950t、およそゾウ5万頭に匹敵する量の象牙を輸入していた」

 以降、アフリカゾウがワシントン条約の附属書Ⅰに掲載された1989年までの間に日本の輸入量は急減し、現在に至っては国内市場の消費量は年間およそ5~10t程と推測される。近年では、ETISの違法取引の分析結果からも日本はほとんど姿を消している。 「日本における需要の削減は、わたしが知る歴史の中でも、もっとも驚くべき成功例である」 ミリケンは、聴衆に対して感謝の意を表した。

 では、どのようにして日本の象牙需要は減少したのか。当時のトラフィックジャパンの事務局長として、野生生物の違法取引の問題を社会に知らせ、日本のワシントン条約の施行状況の改善に尽力したミリケンは、こう話した。 「まず日本のメディアが味方についた。そして、イギリス王室や日本の皇室をはじめとした影響力のある人々が、社会に向けてメッセージを発信し始めた」

 「こうした動きを受けて、経済成長の只中で取引規制を要するワシントン条約に対して後ろ向きであった日本政府も協力に転じ、最後には、業界も大きく貢献した」

 業界には、感情的な決めつけや非難ではなく、常に根拠となるデータをもって対話を続け、相互理解に努めたとミリケンは振り返る。 「日本がアフリカゾウの附属書Ⅰ掲載を留保(※3)していたら、アフリカゾウは違った運命をたどっていたことだろう」

 近年における違法取引の急増は、現在の主要消費国となっている中国やタイの急速な経済発展に起因していることが示唆されている。

 「過去の状況と明らかに異なるのは、アフリカの経済発展が中国の投資と一体となっていることである。言い換えれば、中国資本と産業がアフリカゾウの生息地の傍まで来ているということだ」 地元メディアに頻繁に取り上げられる象牙の違法取引のほとんどに、中国人が関与していると言われる。こうした事態を受け、中国政府や関連団体は、密輸取り締まりの強化に加えて、アフリカに在住する中国人への注意喚起や、中国国内の需要削減に向けた取り組みをおこなっている。

◆サイの話

 サイも似たような歴史をたどっている。1970年代まで、日本はイエメンと並び犀角の主要な輸入国であった。今となっては知る人は少ないが、ワシントン条約により輸入が禁止されるまで、犀角は単味で風邪や麻疹(はしか)の薬として、また『救心』や『宇津救命丸』をはじめとした一般的な和漢薬の成分として幅広く利用されていた。その後、韓国や中国、台湾が入れ替わりに主要な輸入国となり、ワシントン条約とアメリカによる制裁の示唆を受けて1993年に犀角の取引を禁止した。

 「直後の1994年から2007年までの間、サイの密猟はほとんどなくなり、個体群は回復を始めていた。それが、2008年以降、ベトナムにおける需要の急騰を受けて一気に状況が反転し、密猟が異常なまでに激増した。今年は南アフリカ共和国における密猟数は1,100頭を超えると予測され、非常事態が続いている」 と、ミリケンは訴える。実に、1日に3頭のサイが密猟されている計算である。

 「犀角は、ベトナムの中間層から富裕層の間で、地位の象徴として社交的な場でお酒に混ぜてふるまわれている。他にも、末期がんの特効薬として患者家族に売りつけられたり、若い母親が子供の常備薬として買い求めたりしている」

 犀角があまりにも高値で取引されることから、スポーツハンティング業界や政府が関与した組織的な腐敗が蔓延し、違法取引を助長している。また、犀角に限らず、違法取引で得る利益と比較して罰則が軽すぎることから、司法が抑止力になっていないこともミリケンは指摘する。

◆最後に

 解決策については、会場から活発な質問や意見が飛び交った。水際で密輸を阻止するための画期的取組、地域コミュニティによる自主的取組、需要削減の経験をもつ日本が出来ること、そして、市民一人ひとりが出来ることなど、積極的な質問が多く寄せられ、参加者の意識の高さが伺えた。

 しかし、日本の消費者も野生生物の利用について過去の問題として甘んじてはいけない。トラフィックが実施している意識調査によると、ゾウ・サイ・トラの絶滅の危機に対する認知度は、需要削減を経験した高齢層で非常に高い一方で、年齢とともに低下し、若年層では半数以上が認知すらしていないことが明らかになっている。

 「アジアで他国に先駆けて象牙や犀角の需要を削減してきた日本は、今、世界が直面している危機に対しても積極的に貢献していく責任があると同時に、国内の管理体制の強化や市民の啓蒙にも努めていく必要がある」 と、トラフィックイーストアジアジャパンのプログラムオフィサー松本智美は言う。

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※1 MIKE: Monitoring the Illegal Killing of Elephants(ゾウ違法捕殺監視システム)
ゾウの密猟傾向に関する情報を収集し広めるため、1997年より導入された。ワシントン条約事務局が管理・運営している。

※2 ETIS: Elephant Trade Information System(ゾウ取引情報システム)
象牙および象牙製品押収に関する法執行データを収集し、取引傾向を分析するため1989年より導入された。ワシントン条約の下、1997年よりトラフィックが管理・運営している。

※3 留保: ワシントン条約加盟国は、附属書に掲げる種について留保を付することができる。留保を付した種については、締約国でない国として取り扱われることとなり、現在日本が留保を付している種は、(一部個体群を除く)15種と1属。原則的に、掲載の際に発生する国内の問題を解決するための猶予期間と考えられている。

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【参考資料】

ゾウ特集ページ:

最新の報告書:
『Illegal Trade in Ivory and Rhino Horn: An Assessment to Improve Law Enforcement Under the Wildlife Traps Project』
発行:TRAFFIC International【2014年9月発行】
著者:Tom Milliken【英語】30pp

『Polishing off the Ivory: Survey of Thailand's Ivory Market』
発行:TRAFFIC International【2014年7月発行】
著者:Naomi Doak【英語】20pp



◆サイの違法取引について語るトム・ミリケン(2012年)

2014年10月17日
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発行:TRAFFIC, Malaysia【2016年3月】 著者:Kanitha Krishnasamy, Sarah Stoner【英語】44pp

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