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対策を講じなければ制裁措置を‐ワシントン条約・タイの違法な象牙取引

2014年08月07日
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週末のマーケットで販売されている象牙製品
(タイ、チャトチャック)©Naomi Doak / TRAFFIC

 7月に開催された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の常設委員会(会期間会議)は、タイが国内の違法な象牙取引に対処するための厳しい期限付きアクションに合意して幕を閉じた。達成できなければ、取引制裁措置に直面する可能性が出てくる。

 タイは、今年9月30日までに国内象牙行動計画(National Ivory Action Plan)の修正版を提出することとされ、修正には特定の対策を盛り込むことが決まった。ひとつには、国内象牙取引の効果的管理を可能にするために必要な法改正として、タイの野生生物に関する国内法の下でアフリカゾウを「保護種(Protected species)」に指定し、象牙の違法所持や違法取引に対する罰則を強化すること。その他に、国内の合法象牙および認可された象牙取引業者の包括的な登録制度の構築や、取引業者の管理とモニタリングの強化、違法取引の取り締まりの強化といった対策が含まれる。

 ワシントン条約によるタイの取組の評価は2015年3月31日に実施が予定されているが、そこでもし進捗が不十分と判断された場合、罰則として取引制裁措置を同国に課すべきか否か、常設委員会のメンバーは投票することとなる。

 もしも取引制裁がおこなわれた場合、同国の経済に深刻な影響が及ぶことが推測される。ワシントン条約の取引制裁では、すべての掲載種における取引が不可能になるためだ。例えば、経済効果の高いタイの園芸産業によるランの輸出は実質的に停止され、これは2013年の取引額から算出して年間8000万ドル(およそ82億円)以上の損失に値する。

 「ワシントン条約からのメッセージは極めて明確である-タイは早急に対処するか、さもなくば、責任をとることになる」トラフィックのポリシーダイレクター、サブリ・ザインは言う。

 タイは、国内象牙行動計画を策定するよう2013年にワシントン条約で命じられた8カ国のひとつである。今回の会議は、これらの国の取り組みを締約国が評価する最初の機会であり、タイは目ぼしい進展を示すことができなかったとして最も批判を浴びる結果となった。

 会議の一週間前、トラフィックはタイの象牙市場を調査した報告書を発表した。調査では、タイが国内の象牙市場を廃止すると宣誓してからわずか一年足らずの間に、バンコクにおける象牙の販売量が3倍に増えたことを明らかにしている。


 ワシントン条約常設委員会の数多い議題の中では、サイの密猟危機に関しても関係各国による対策の進捗が議論された。ベトナムからは、グエン・タン・ズン首相が、管轄各省による全レベルでの法執行の強化に加え、関係省庁全体にわたってアフリカゾウ象牙および犀角の密猟と違法取引の撲滅を指示するトップレベルの指令を出したとの報告がされた。

 一方で、モザンビークが特に懸念すべき国として浮上した。犀角の違法取引に対処するための法整備が進んでいないことに加え、同国が南アフリカで暗躍する密猟者の拠点になっているのと同時に、アフリカから密輸出される犀角の主要な中継国としての役割も担っているためである。

 南アフリカの水資源・環境省(Department of Environmental Affairs)は7月10日、2014年の現時点までサイの密猟数が558頭に上っていると報告した。このうちクルーガー国立公園だけで351頭が犠牲になっており、このままのスピードでいくと昨年の記録的数字-1,004頭を超えることが確実と見込まれる。


 アジア産大型ネコ科4種(トラ、ライオン、ヒョウ、ユキヒョウ)の保護に向けた生息国による対策の実施状況についてトラフィックが共同執筆をおこなった報告書も議題に上がった。報告書は、1990年後半以降のこれらの種の違法取引に関する情報と分析を集約した統括資料としてワシントン条約に提出され、会議に重要な課題をいくつか提示した。法制度の改善と生息国間の国際協力の強化など、報告書が提案する勧告のほとんどが採択された。本件については作業部会が設置され、報告されている情報をもとに、対策が最も必要とされる優先課題を抽出し、2015年に開催される次のワシントン条約の常設委員会に対し適切な勧告を提出することが決まっている。


 議論の的となった他の議題には、マダガスカルのローズウッド (Dalbergia spp.)の蓄積された在庫をどうすべきかという問題もあった。これらの高価値の木材種は、マダガスカル北部を含む保護区域から違法に伐採されているものであり、それらを競売する許可を求める動きがある。しかし、ワシントン条約常設委員会は、売却を認めるかを考慮するにあたっては、完全な在庫調査が前提条件であると判断した。


 2013年3月にワシントン条約の附属書掲載が採択された7種のサメ類と2種のオニイトマキエイ類の掲載施行が今年9月に発効する前に、必要となる措置に関する重要な明確化もなされた。施行を遅らせたのは、各国政府が新たな措置に順応する時間を提供するためであった。

 また、サメの附属書掲載を施行(効力発生)するにあたり、国々を支援する数々のツールが利用可能であることについて、締約国へ情報提供がなされた。その中には、取引が特定の種に悪影響を与えるかどうか(いわゆるNDF(有害ではないという知見)―取引を許可する際にワシントン条約許可書を発行できる前提条件となる)を評価する際の手引きとしてもらうためにトラフィックが開発した方法も含まれている。


 「今回は、全体として非常に前向きな会議であり、2013年3月にワシントン条約が残した課題に取り組むことにより、ワシントン条約が、世界の野生生物の保護のために不可欠な措置の導入を手助けできる構造と仕組みを持つということを示した」とザインは言う。

2014年08月07日
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