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この10年の間に1,000頭以上のトラが皮や骨に

2010年11月10日
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101109tiger-skull-image.jpg ©TRAFFIC Southeast Asia

【2010年11月9日 英国、ケンブリッジ発】
過去10年間にトラの生息国で少なくとも1,069頭分のトラの部分が押収されていたことが、トラフィックのおこなったトラの押収についての分析から明らかになった。

 新たに発表されたレポート『Reduced to Skin and Bones: An analysis of tiger seizures from 11 tiger range countries (2000-2010)』によれば、2000年1月から2010年4月の間に、13のトラ生息国のうち11ヵ国で1069~1220頭分のトラの部分、平均して年間104~119頭分の部分が押収されたとしている。

 レポートによると、11ヵ国の中でインド、中国、ネパールがトラの部分の押収件数がもっとも多い国であると位置づけられている。インドは群を抜いて多く、276件のトラの部分の押収があり、それは469~533頭のトラに相当する。中国は40件で、押収件数は2番目に多く、これは116~124頭に相当する。ネパールからは39件で113~130頭分に相当する押収が報告されている、としている。

 「世界に生息するトラの半数がインドに生息しているとすれば、この国の押収件数がもっとも多いことは驚きには値しないし、押収数が多いことは、取引が多いかまたは効果的な法執行活動がおこなわれているか、あるいはその両方を示しているのかもしれない。とはいえ、その国のトラが深刻な密猟圧にさらされていることを強調している」と、このレポートの著者であるトラフィックとWWF共同のトラ取引プログラムのマネージャー、ポーリーン・ヴァーヘイジは言う。「100頭以上ともされる野生のトラの部分が実際毎年押収されており、失われているトラの正確な数がどれぐらいかは推測することしかできない。」

野生のトラを守るためにさらなる法執行活動が必要

 取引されていると報告されたトラの部分は、全身の皮、骨格、生きたトラや死んだトラ、骨、肉、かぎ爪、歯、頭蓋骨、ペニス、その他の身体の部分など多岐に渡る。これらは装飾用、伝統薬や幸運のお守りといった形で様々な文化の中で利用されている。

 
101109tiger-report.jpg

 「違法なトラの取引が、消費国や生息国の双方で多くの政府・機関によってトラの違法取引を抑えるための膨大かつ絶え間ない努力が払われてきたにも関わらず、トラの違法取引が続いていることを、なによりまずこのレポートは示している」とWWFのトラ保護プログラム(WWF Tiger Alive Initiative)のリーダー、マイク・バルツァーは言う。

「これまでの法執行活動が、効果がない、もしくは抑止力として不十分であることは明白である」とバルツァーは言う。「捕まるリスクが著しく高まるというだけでなく、押収や逮捕に続いて、トラに対する犯罪の深刻さを反映した、迅速な犯罪訴追手続きおよび適切な処罰がおこなわれるべきである。」

 レポートはまた、インドネシア、ネパール、タイ、ベトナムでの押収数が明らかに増加していることも指摘している。レポートによれば、いくつかの地域が違法取引のホットスポットとして突出している。経由国としてのネパール、インド-ミャンマー間、マレーシア-タイ間、ミャンマー-中国間、ロシア-中国間の国境がこうした地域に含まれる。さらに押収の多くは、西ガーツ、スンダルバンズやテライ・アーク(これらはインドと隣国の国境に位置する)といったトラが保護されている地域から50km圏内で起きている。

 「しかし、法執行活動がうまくいくだけではこの問題は解決しないだろう。野生のトラを守るために、カギとなるアジア諸国全体でトラの部分への需要を減らすための協調した活動が必要である」とトラフィックの事務局長スティーブン・ブロードは言う。

 
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レポートでは、13のトラ生息国のうち11ヵ国でのトラの部分の押収事件が地図上にプロットされている。©TRAFFIC

 著者は結論の中で、これまでの法執行活動は「国内および国際レベルで責任を担う人々の間で、違法な捕殺や取引からトラを守るという政治的な意志が欠けている」と指摘している。

 「責任を果たすという観点からのパラダイムシフトが必要であり、地球上でももっとも伝説的な種のひとつともいえるトラを絶滅に追い込む力に対抗するために、すべての関係者らが、情報に基づき、よく連動した、国境を越えた、持続的な後押しをおこなうための力に加わっていかなければならない」とレポートの中で述べている。

衰退を続けているが希望はまだ残されている

 野生のトラの個体数は急激な落ち込みを見せており、生息域の損失や人の侵入およびトラの主要な獲物である種が過剰に密猟されていることなどと相まって、トラ自身の密猟や違法取引が組み合わさりこうした急激な落ち込みの原因となっている。一世紀昔10万頭いた野生のトラは、今日ではその数はわずか3,200頭ほどだと言われている。

 
101109Tiger-skin-TSAsia.jpg ©TRAFFIC Southeast Asia

 今月下旬にロシアのサンクトペテルブルクでトラサミットがおこなわれる。2022年までに野生のトラの数を2倍に増やすことを目指す計画であるグローバルトラ回復プログラム(Global Tiger Recovery Program)をまとめあげるため、トラ生息国の政府首脳たちが集まる準備が進められている。このレポートはこのサミットに合わせて発表された。グローバルトラ回復プログラムには、野生生物犯罪対策推進のための国際コンソーシアム(ICCWC)による法執行に関する大きな後押しも含まれるだろう。ICCWCは、ワシントン条約、国際刑事警察機構(インターポール)、国連薬物犯罪事務所、世界銀行、世界税関機構から成る。ウラジミール・プーチン首相は11月21日~24日にトラサミットである国際トラフォーラム(International Tiger Forum)を主催するが、トラの全生息国、13ヵ国からの代表の参加が見込まれる。

 ブロードは言う。「来たるべきサミットは野生のトラの未来にとって極めて重要。まさにトラの未来は、生死の淵をさまよっている。」

 

レポートはこちらからダウンロードできます。
『Reduced to Skin and Bones. An Analysis of Tiger Seizures from 11 Tiger Range Countries (2000-2010)』 (PDF, 4 MB)


 トラフィックは、世界規模で違法な野生生物取引に対抗すべくアジアの法執行ネットワークの政府機関を支援している。ASEAN諸国や南アジアの野生生物法執行ネットワーク、中国や差し迫った状況の隣国への要求に応じて、法執行のつながりを越えた技術的な支援をおこなっている。こうした技術支援には、政府間の対話の促進、司法分野との連動、現地に基盤をおいたレンジャーと国レベルの機関とのつながりの改善にWWFとともに取り組むことなどが含まれている。

 

Richard Thomas, Communications Co-ordinator, TRAFFIC. Tel: +44 1223 279068, mobile + 44 752 6646 216, email: Richard.thomas@traffic.org
Ian Morrison, Media Officer, WWF International. Tel: +41 22 364 9554, mobile: +41 79 874 6853 email: imorrison@wwfint.org


関連情報

→ニュース『ミャンマーの国境地域の市場がトラにとって致命的な取引経路に』

→トラの特集サイト『絶滅の危機にあるトラを救おう』

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