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【ケニア、ナイロビおよび英国、ケンブリッジ発 2010年5月13日】
地球上で経済や人々の暮らしを支えている生態系。持続可能な形で管理するための即座の効果的な保護対策がないまま、生態系が急速な悪化や崩壊の危機にいかにさらされているかを明らかにした国連の報告書が今週発表された。
生物多様性条約によって作成された『世界規模生物多様性概況第3版(The third edition of Global Biodiversity Outlook (GBO3))』によって、2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させるという目標を、世界は達成することができなかったことが裏付けられた。
このGBO3では、さらに大規模な生物多様性の損失が起きる可能性がますます高まり、それとともに、人間社会にとって欠くことのできない多くの生態系サービスの深刻な減少がいくつかの「転換点(tipping point)」として近づいてきている。それは生態系が、回復が難しいまたは不可能な、まったく新しい状態である、より生産性の低い状況である。
「転換点」には、以下のものが含まれる。世界的な気候・地域的な降雨・広範囲に及ぶ種の絶滅に影響を与えることになる、気候変動や伐採、火事が組み合わさって起きる広範囲のアマゾンの森林の立ち枯れ;酸素欠乏や広範囲にわたる魚の死を引き起こす淡水湖の富栄養化;および海水の酸性化および水温上昇の組み合わせによるサンゴ礁の生態系の複合的な崩壊、および何億もの人々の生活への脅威。
GBO3では、「貧困の低減および地球上のすべての生命の利益への寄与として、世界、地域、国レベルにおいて、現在の生物多様性の損失速度を、2010年までに顕著に減少させる」という、世界の加盟国政府が2002年に立てた目標が達成されなかったことを、複合的な証拠を用いて示している。
生物多様性の指標(インジケーター)の特別な分析が科学者パネルによって実行され、その分析にもとづいた調査からは、各国政府が生物多様性条約に提出した、検証された科学的な文献や報告書と同様、総合的な2010年目標(2010 biodiversity target)に付随した21の個別目標のいずれも、部分的あるいは局所的に達成されたものの、地球規模では確かに達成されていないと言えることがわかった。CBDが作成した15の指標のうち10が、生物多様性にとって好ましくない傾向を示している。
トラフィックとIUCN/SSC薬用植物専門家グループは、食品や薬に使われる野生種の生息状況の動向をモニターするための指標を作り上げた。これらは食品・薬として利用される鳥類や哺乳類の方が通常、利用されていないものより、より脅かされていることを明らかにした。これは、過剰な利用によるものか、あるいは生息地の損失といったそのほかの理由、あるいはそうした要因が組み合わさることに起因しているかもしれない。
「原因にかかわらず、野生生物資源の利用の可能性を減少させることは、食料や薬を直接野生生物に頼っていたり、収入源として野生からの生物を採取することに頼っている人々の健康と幸せを脅かす」とトラフィックの調査・分析プログラムのリーダーであるThomasina Oldfieldは言う。
植物の保護状況については、さらによくわかっていない。しかし地球全体においては発展途上国の人々のおよそ80%は伝統的な薬に頼っており、そうした薬の大部分は植物由来のものである。
IUCN/SSC薬用植物専門家グループ長のDanna Leamanによれば、「今まで査定された薬用植物については、健康管理や収入を野生からの採集することにもっとも依存している人々の住む地域、すなわちアフリカやアジア、太平洋地域や南米において、絶滅の危機が高まっていると思われる。」
生物多様性条約の科学技術助言補助機関(SBSTTA)の第14回会合および続くWGRI(条約実施レビューに関する作業部会)で検討されるべく、ケニアのナイロビでこのGBO3は発表された。
GBO3は、9月22日の国連総会において、さらに世界の指導者や国の代表による話し合いの際に重要な情報となるだろう。この結果は、2010年10月に名古屋で開かれる生物多様条約第10回締約国会議において、世界の政府代表による話し合いの中心となるだろう。
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