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よく管理された野生生物取引は貧しい人々にとって利益ともなり得る

2008年05月24日
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  水槽飼育向け観賞魚取引は、沿岸地域の他に生計を立てるための選択肢はほとんどない地元の貧しい人々にとっての収入となっており、その利益は大きい。© Tantyo Bangun / WWF-Canon
  水槽飼育向け観賞魚取引は、沿岸地域の他に生計を立てるための選択肢はほとんどない地元の貧しい人々にとっての収入となっており、その利益は大きい。© Tantyo Bangun / WWF-Canon

【ドイツ、ボン発 2008年5月24日】

 よく管理された野生生物取引は、世界の貧困に対して重要な開発利益をもたらす可能性を秘めていることが、トラフィックとWWFの新しいレポートからわかった。

 新しいレポート『Trading Nature: the contribution of wildlife trade management to sustainable livelihoods and the Millennium Development Goals(野生生物取引管理の持続可能な暮らしおよびミレニアム開発目標への貢献)』によれば、野生生物取引が貧困者へのチャンスを与え、地元社会への利益を提供するが、もし違法で非持続可能な方法での取引が横行した場合はこれらが脅かされるおそれがあることも示している。

 野生の植物と動物やその派生物である製品の合法的な国際取引は、申告された輸入価額を元に推定すると2005年には3,000億ドル近くに相当する。そしてまたその価値は上がっている。

 レポートではまた、よく管理された合法的で持続可能な取引はまた8つのミレニアム開発目標(MDGs)にとっても重要な影響を与えることができるとしている。開発目標とは開発のために世界的に合意されたロードマップであり、貧困や飢餓の減少(MDG1)、教育への機会(MDG2)、保健医療(MDG4、5、6)、環境的な持続可能性(MDG7)および良い統治(MDG8)を目標として提示している。

 野生生物製品は、例えば薬、食品、衣料、装飾品、家具、ペット、観賞用植物、動植物の展示、調査、手工業・建設資材といった形で取引されている。貧困者の収入にも貢献しているとともに、家を建てたり、健康やそのほかの目的のために多くが直接的に貢献している。

   	ビクーニャの毛を持続的に管理することによって地域社会が経済的な利益を得ることは、高額の管理コストや収益の遅速性のため、簡単なことではない。
                ©Hartmut Jungius / WWF-Canon
  ビクーニャの毛を持続的に管理することによって地域社会が経済的な利益を得ることは、高額の管理コストや収益の遅速性のため、簡単なことではない。©Hartmut Jungius / WWF-Canon

 レポートでは、東アフリカと南アフリカにおける野生動物の肉や、ラテンアメリカにおけるペッカリーおよびカイマンの皮やビクーニャの毛、アジア沿岸域での水産物に関するケーススタディーについて調べている。例えば、フィリピンでタツノオトシゴを漁獲および取引している者は、そこから得られる収入が、年間の収入に対して30~40%、時には80%にもなると報告している。

 WWFインターナショナルの種保全プログラムのディレクターであるスーザン・リーバーマン博士は、「野生生物製品の取引は、例えばそれが合法的でよく管理され、持続可能であれば、人々の生活や子どもたちの教育、また途上国での助成の役割へ、重要な積極的な経済インパクトを与えることができるだろう」という。

 反対に、大規模な自然資源の「略奪」や違法取引は、ただ野生生物個体群をとり尽くしてしまうだけでなく、生計を立てる上での命にかかわる利益をも奪っていることになる。

 「野生生物取引のよい管理なしで、他のどの開発目標も真の意味で達成することはできない」とトラフィックの事務局長であるスティーブン・ブロードは言う。

 「私たちは、資源を得る権利の問題にもっと注意を払い、もっとも商業的にも価値のある野生生物の品々の非持続可能採取に取り組む革新的なアプローチを開発するよう政府に呼びかける。」

 レポートでは、政府に対して、半集約的な生産(semi-intensive production)の方法を探求し、取引される種にとって持続可能な採取レベルを支持する管理体制を試み、基準や認証スキームに対して「貧困をなくす(pro-poor)」アプローチを進展させ、野生生物取引の中の異なる構成要素に対して協調したアプローチ、例えば、商業と最低限生活を支える利益とのバランスをとるといったこと、を提言している。

 またレポートでは、開発のツールとしての野生生物取引の利用にぶつかった挑戦がいくつかあることがわかった。特に、貧しい人々による野生生物の所有権を守る必要性や、認証の仕組み、飼育繁殖、半集約的生産の落とし穴や、長く複雑な取引の鎖に沿って存在する生産者にまで及ぶ利益の問題について強調している。

*レポート(英語)のダウンロードはこちらから
Trading Nature: the contribution of wildlife trade management to sustainable livelihoods and the Millennium Development Goals (野生生物取引管理の持続可能な暮らしおよびミレニアム開発目標への貢献)


*ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs):
2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットに参加した147の国家元首を含む189の加盟国代表は、21世紀の国際社会の目標として国連ミレニアム宣言を採択した。この国連ミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、ひとつの共通の枠組みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)である。
MDGsは、2015年までに達成すべき以下の8つの目標を掲げています。
1:極度の貧困と飢餓の撲滅
2:初等教育の完全普及の達成
3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
4:乳幼児死亡率の削減
5:妊産婦の健康の改善
6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
7:環境の持続可能性確保
8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進
(出典:外務省のウエブサイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html)
 


■詳細に関するお問い合わせ

Richard Thomas, Communications Co-ordinator, TRAFFIC, tel: + 44 1223 279068, email: richard.thomas@traffic.org

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