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野生植物の利用と人々の暮らしの持続可能性-世界的な生物多様性条約(CBD)の議論形成と各国の施行支援

2012年10月29日
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121015TRAFFIC_GSPCside-event3.jpg ©TRAFFIC

【インド、ハイデラバード発 2012年10月15日】

 野生植物の保全と持続可能な利用、そして植物に関連した伝統的な知識の保存は、生物多様性条約(CBD)の個別目標を話し合う上で重要である。これらがハイデラバードで開催されている第11回締約国会議(CoP11)の1週目に議論された。10月11日に、議題13.7:世界植物保全戦略(Global Strategy for Plant Conservation:GSPC)の中で、今年のはじめに開催されたCBDの科学技術助言補助機関(Subsidiary Body on Scientific, Technical and Technological Advice:SBSTTA)の第16回会合からもたらされた関連決議が議論されており、この決議が基本的に変更なく承認された。トラフィックは、この討議の中でCBDの第10回締約国会議(CoP10)の決議X/17の実施の進展を歓迎するという、WWFとの共同の公式発言をおこなった。この発言の中では特に、GSPCを施行するためのツールキットの開発や、GSPC目標の規約や専門的な解釈の更新、GSPCの戦略計画における指標の枠組みの適用性を分析したことなどについて称賛した。 

 「世界植物保全戦略の決議が締約国会議によって承認されたので、今度はこの良い枠組みの達成が、効果的な活動によって実現されなければなりません。それには各国が世界植物保全戦略の目標を施行することも含まれます」と、トラフィックの薬用植物プログラムのリーダー、アナスタシア・ティモシャイナは言う。 

 ティモシャイナはさらに、社会的にも環境の面でも持続的に野生植物資源を利用するためのフェアワイルド基準(www.fairwild.org)の開発と利用について注目を喚起した。「フェアワイルド基準は、世界植物保全戦略の目標11、12および13を実施するために、CBDの締約国政府や民間部門を手助けするツールとして利用することができます」。 

 フェアワイルド基準は、GSPCの目標12の達成と愛知目標4の達成に貢献する成功事例(ベストプラクティス)として、GSPC施行のための新しいツールキットの中に含まれている。トラフィックは、植物保全に向けたグローバル・パートナーシップ(Global Partnership for Plant Conservation:GPPC)のメンバーとしても、戦略の実施に貢献している。 

 CoP11の1週目に開催された3つのサイドイベントでは、戦略を施行するための課題に焦点がおかれた。

 

 10月11日にGPPCとミズーリ植物園(Missouri Botanical Garden)によって開催されたサイドイベント『Wild Flora Online by 2020(2020年までに野生植物オンライン化)』は、目標1:「既知の植物のオンライン・データベース[An online flora of all known plants.]」の達成を報告した。

   

 『GSPC-Building Capacity to Support National Implementation(GSPC:国における施行を支援するための能力開発)』と題したサイドイベントでは、GPPCの議長でもあるミズーリ植物園のピーター・ワイズ・ジャクソン氏が、能力開発プログラムにおいて、「量より質」の重要性に言及した。植物園自然保護国際機構(Botanical Gardens Conservation International:BGCI)のスザンヌ・シャロック氏は、各国や地域のGSPC施行を支援するために開発されたオンラインのツールキットを発表した。現在、すべての国連言語で利用可能である。フランス国立自然史博物館(Natural History Museum of France)の マテ・ドマ(Maite Demas)氏は、植物の知識、保全と持続可能な利用に関する能力開発に関するSud Expert Plantes (SEP)プロジェクトの経験を共有した。CBD事務局のクリスティナ・ロマネリ(Cristina Romanelli)氏は、CBD事務局とGSPCによる、GSPCに関連した能力開発活動についてパートナシップのメンバーからの情報を収集するためのイニシアティブについて注目を喚起した。このイニシアティブの結果、目標11、12および13(すべてGSPCの個別目標IIIに含まれる)は、能力開発の活動がもっとも遅れているということが示された。 

  

 10月12日には、サイドイベント『Towards the Delivery of Aichi Targets 4, 6 and 18 through the Global Strategy for Plant Conservation: Sustainable Use of Wild Plant Resources(世界植物保全戦略を通じた愛知目標の目標4、6、18の達成に向けて:野生植物資源の持続可能な利用)』が開催された。このイベントは、植物園自然保護国際機構(Botanic Garden Conservation International:BGCI)、生物多様性の利用および知識に関する国家委員会(Comisión Nacional para el Conocimiento y Uso de la Biodiversidad:CONABIO)、地域伝統医療振興財団/アーユルヴェーダ・総合医学研究所(FRLHT/I-AIM)、IUCN薬用植物専門家グループ(IUCN-MPSG)と、トラフィックが共催した。持続可能な利用に関する目標の達成のための課題と機会について議論された。特に、存続のおそれのある野生植物種の国際取引をCITESと共同で防ぐこと、持続可能な調達(フェアワイルド基準を強調)、野生植物利用に関連する伝統的な知識の保存について議論をおこなった。

 CONABIO からヘシキオ・ベニテス・ディアス(Hesiguio Benitez Diaz)氏が、メキシコ政府の経験について発表した。彼は、目標を実施するためのメキシコの戦略の背景にある、GSPCの目標11とCITES植物委員会の働きとの結びつきについて説明した。

  トラフィックのアナスタシア・ティモシャイナは、植物資源の持続可能な利用と、GSPCの目標12の達成に関連する課題の現状を発表した。フェアワイルド基準は、野生植物の生態学的、経済的、社会的に公平な利用を確保するための一連の原則であり、認証システムも提供することで目標12を達成するために役立つツールとして説明された。

 トラフィックイーストアジアジャパンの金成 かほるは、CITESの効果的な実施を支援する取り組みについて発表した。これは、目標11の達成に直接つながる。また、各国の関係者の能力開発を支援するための最新の活動、フェアワイルドの推進、さらに、各国が「有害でないという判定(Non-detriment Findings:NDF)」の研究実施のサポートなどの活動を紹介した。

 BGCIのスザンヌ・シャロック氏は、野生植物利用の多様性を強調するブラジル、中国、インド、メキシコの持続可能な利用の最新の事例について語った。

 FRLHT/I-AIM のジャガナサ・ラオ(Jagannatha Rao)氏は、GSPCの目標13と愛知目標18の達成に貢献する実例を紹介した。インドの薬用植物利用の伝統的な知識の保存について強調し、それらが、非常に広範にわたるものであること、植物採集の知識の共有や、文献情報を更新する努力、知識の維持などをおこなっていることを紹介した。40名ほどが参加したこのイベントは、これらの発表から活発な議論を生み、終了した。

 


■参考情報■

2011年~2020年改訂世界植物保全戦略 

目標11:いかなる野生植物種も国際取引の脅威に晒されない。
Target 11 : No species of wild flora endangered by international trade. 

目標12:あらゆる野生で採取される植物を基にした製品が持続可能な方法で調達される。
Target 12 : All wild harvested plant-based products sourced sustainably. 

目標13:植物資源に関する先住・地域の知識、革新、慣習が、慣習的な利用や持続可能な生活、地域の食糧安全保障と保健を支えるよう適切に維持もしくは強化される。
Target 13 : Indigenous and local knowledge innovations and practices associated with plant resources maintained or increased, as appropriate, to support customary use, sustainable livelihoods, local food security and health care. 

(訳は:日本の植物保全-世界植物保全戦略への日本の対応(要約版)第10回生物多様性条約締約国会合採択決議-決議X/17.世界植物保全戦略2011年~2020年の全面改訂【収録】 発行:生物多様性JAPAN[2011年3月]より)


 トラフィックとCBDに関するさらなる情報はこちら(英語)
www.traffic.org/cbd

関連ニュース
野生の植物、持続可能な利用と人々の暮らし:世界植物保全の進展状況

 

2012年10月29日
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