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ベトナム:野生から持続可能な方法で薬用植物を採取するプロジェクトが始動

2012年05月23日
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120409Vietnam-med-plant-project.jpg トラフィックの森林取引オフィサーのングイェン・ティ・マイがベトナム北部での持続可能な薬用・アロマティック植物プロジェクトの立ち上げについて話をしている。 ©TRAFFIC

【ベトナム、ハノイ発 2012年4月9日】
 ベトナムには、農村地域の人々が伝統薬として頼っている植物がある。トラフィックは、バックカン森林保護局(Bac Kan Forest Protection Department (FPD))と協力して、こうした植物を守るベトナム初のプロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトでは、持続可能でない採取や生育地の破壊によって存続が脅かされている植物を対象としている。

 ベトナム北部の南シュアンラック種・生息地保全地域(South Xuan Lac Species and Habitat Conservation Area)では、このプロジェクトにより、野生の薬用・アロマティック植物の採取の持続可能性を確保するために策定されたフェアワイルド基準の導入が実行される。

 フェアワイルドは、生態学的な側面と社会的責任の側面からの原則を組み合わせたもので、野生から採集される自然の原料やその製品のための、持続可能で公平な、付加価値を付けた管理や取引システムを実施するための世界規模の枠組みを提供している。

 今回南シュアンラックは、その特有の植生構成や、地域住民による薬用植物の利用、管理されていない採取がおこなわれている事実などを理由に、プロジェクト対象地に選ばれた。

 このプロジェクトは、クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金(CEPF)による財政面等の支援によって、バックカン森林保護局とthe People Resources and Conservation Foundation (PRCF)と共同で実施される。

 地域の採取者、取引業者、政府、トラフィックやPRCFが一緒に活動することで、生物多様性を守り、植物製品に頼っている地域住民の生計を改善するためのフェアワイルドの原則を適用する。

 トラフィックは、野生植物資源の管理、採取の監視や持続可能な採集、付加価値をつけるための加工技術などを地域従事者が身につけられるよう手助けをする。

 「自然資源の持続可能な利用を確実にするための戦略を組み立てたり、野生採取を収入源としている地域の採集者達が、より大きな経済的保障や公平で公正な利益が得られるようにすることが重要である」とトラフィックのグレーターメコン・プログラムのコーディネーター、ナオミ・ドアクは言う。

 このプロジェクトが、地域の人々が自分たちの自然資源をより上手に管理し、利益共有のメカニズムを通じて森林資源を管理する責任を共有できるようにするための手助けとなる点を、バックカン森林保護局長であるホアン・ヴァン・ハイ氏は強調する。また、地域家庭の収入を安定させ、自然資源採集への圧力を減らすことにも役立つ。

 「様々な薬用・アロマティック植物種がベトナム北部全域で広く利用・取引されている。残念なことに、市場からの圧力によって、かつてないほどに持続可能でない方法を用いるよう採集者は追い込まれている。こうした技術は、森林から採れる植物資源の収穫量も品質も下げ、結果こうした植物種を脅かすことになる」とPRCFのベトナム・中国プログラムのチーフ、マイケル・ダイン氏は言う。

 ベトナムでは、需要の高まりや生育域の破壊が野生の植物個体群を危機的な状況に追い込んでいる。こうした状況はまた、植物を売り、利用して暮らしている農村地域の人々の健康や収入にも悪い影響を与えている。

 さらに中国での伝統薬利用の増大で、ベトナムで採れる膨大な量の植物が中国市場に運ばれ、野生植物個体群にとってはなお一層の負担となっている。

 「こうした植物が健康や暮らしに重要であるにもかかわらず、多くの薬用植物種の保全状況の評価や、より持続可能な採取・取引手法の開発に対しては、比較的わずかな投資しかおこなわれてこなかった」とダイン氏は言う。

 「ベトナムは変わる必要がある。薬用植物保護の重要度を上げ、地域レベルでの経済発展を推進する手段と生物多様性保全の両方のバランスをとる必要がある。」

 2008~2010年に、トラフィックはカンボジアでフェアワイルド基準を使った薬用植物プロジェクトの実施に成功している。コミュニティの保護地域内で薬用・アロマティック植物2種の持続可能な資源利用のモデルを確立した。

 このプロジェクトは、地域コミュニティと薬用・アロマティック植物の取引業者との市場をつなげる手助けをし、その結果、地域の採取者の収入を増やし、生物多様性を保護することになった。

 本日の立ち上げに際し、トラフィックはバックカン森林保護局と5年間の覚書を交わし、バックカン省において、生物多様性を保全し、自然資源管理についての能力強化および持続可能な暮らしの推進をおこなっていく。


注:

1) このプロジェクトで選ばれた4種は、インドシナから南中国を原産とするAmomum villosum Lour (訳注:ショウガ科。中国語で陽春砂。種子は中国で中医薬として用いられる)とシュクシャ変種Amomum xanthioides var. xanthioides (訳注:ショウガ科。シュクシャの種子は漢方で用いられる)。どちらもベトナムでは解熱薬・利尿薬として60種類を越える異なる伝統薬製品に利用されている。インド東部から南中国を原産とするショウガ科のAlpinia malaccensis およびAlpinia latilabris は、ベトナム全域で胃の疾患治療に使われている。

2) フェアワイルド基準は、生態学的、社会的、経済的など様々な要件について野生植物の採取・取引を評価する。フェアワイルド基準を使うことが、野生の個体群が維持され、地域の生産者が利益を得られる方法で植物が管理・採取・取引するための活動を助けることになる。さらに詳しくはフェアワイルド・ファウンデーションのウエブサイト(英語)まで www.fairwild.org

3) カンボジアでのフェアワイルド基準の実施の詳細については下記レポートを参照
『Wild for a cure: ground-truthing a standard for sustainable management of wild plants (野生植物の持続可能な管理の基準:フィールドにおける実証)』

 


■詳細に関するお問い合わせは: Brett Tolman, Communications Officer, TRAFFIC-Greater Mekong Programme Tel. +84 4 3726 5026, E-mail: brett.tolman@traffic.org

フェアワイルド(FairWild)について
フェアワイルド基準は、多くの関係団体(トラフィック、WWF、IUCN薬用植物専門家グループ、German Federal Agency for Nature Conservation (Bundesamt für Naturschutz - BfN)が関わり、様々な関係者との協議を通じて開発された。フェアワイルド基準は現在フェアワイルド・ファウンデーションによって運用されている。フェアワイルド・ファウンデーションは、フェアワイルド基準の原則を取り込み、さらなる発展を推進するため2008年に設立された。
フェアワイルド・ファウンデーションのウエブサイト(英語)はこちら www.fairwild.org

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