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土用の丑の日にウナギについて考える

2011年07月12日
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110712kabayaki.jpg ©トラフィックイーストアジアジャパン

減少するニホンウナギ

 今年も夏の土用の丑の日が近づいてきた。土用の丑の日に大量に消費されるウナギは、日本人にとてもなじみの深い魚である。日本で消費されるウナギは「輸入」と「国内生産」により賄われているが、2008年の日本国内市場へのウナギの供給を見ると、輸入調製品(蒲焼など、原魚換算量)30,110 t、国内養殖生産20,952 t、輸入活ウナギ15,887 t、国内天然生産296 tの順になっている。ここでは、資源減少が激しく持続可能な利用が危ぶまれているニホンウナギ Anguilla japonica について、天然資源の現状とその利用に関する規制について考えてみたい。

 ニホンウナギの生息域は日本・韓国・中国・台湾などの東アジアに及んでいる。その生活史は、孵化後、レプトセファルス、シラスウナギ、クロコ、キウナギ、ギンウナギに分かれている。南方海域の産卵場で孵化したレプトセファルスは黒潮などの海流に乗って運ばれ、陸地に辿りついたシラスウナギは川を遡り、それぞれが成長する生息域へ移動して行く。そして、成長すると海に向かって川を下り、また産卵場へ向けて長い旅に出る。2009年に今まで謎であったニホンウナギの産卵場がマリアナ諸島沖で突き止められ(Tsukamoto, 2011)、2010年にはニホンウナギの完全養殖が成功した(田中, 2010)。

 ウナギに関する明るいニュースが続いているが、それを喜んでばかりはいられない。日本で生産されるウナギのほとんどが養殖であり、卵から育てる完全養殖が研究として成功したとはいえ、コストの面から実用のめどは立っていない。養殖生産は野生の稚魚のシラスウナギを種苗とし、それを育て生産しているが、シラスウナギの採捕量は1960年代の年間150 tから2000年代に15 t と10分の1に激減している。また成長した天然ウナギの漁獲量も同時期に年間3,000 t から620 t に激減しており、これらは、ニホンウナギ資源量の減少を表していると考えられる(図1)。ニホンウナギを巡る状況は決して楽観を許すものではない。

図1. 日本のウナギ(成魚)漁獲量とシラスウナギ採捕漁の推移

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出典:農林省水産統計年報

求められる対策

 ニホンウナギの資源量が危惧される中、その資源を管理する規制の現状について考察する。ウナギ資源管理は主に各県によりなされていて、ウナギ養殖と同様に長い歴史がある。しかし、ウナギが回遊魚である事など新しい知見を得た今、ウナギ資源管理の制度を改めるべき時がきている。

 天然ウナギの利用は、養殖用シラスウナギの採捕と直接消費する成長したウナギの漁獲である。シラスウナギの採捕は原則禁止されており、特別採捕として特例の採捕量や採捕時期が各県毎に認可されている。成長した天然ウナギの規制について、漁獲データを公表している42県中上位5県にインタビューをおこなった所、いずれも漁業調整規則として量的な規制は定められていなかった。資源量が豊富で採捕したシラスウナギを現地で養殖していた時代には、県毎のシラスウナギ採捕規制が有効であったかもしれないが、資源量の減少が懸念され、物流が発達し、県外、国外からシラスウナギが流通する現在、県毎の規制は資源管理としての効力を失っている。水産庁がシラスウナギ流通の透明性を確保するよう技術的アドバイスをおこなっているが、あくまでも自主的な取り組みとなっており、他県や国外から持ち込まれた養殖用シラスウナギが、今問題となっているIUU(違法・無規制・無報告)漁業由来のものである可能性を否定できない。

 県毎の管理でもうひとつ大きな問題が情報公開の問題である。ニホンウナギの資源減少の原因を探るために多くの研究がなされ(立川, 2001)、その原因には、乱獲、河川の環境悪化、海流の影響などが考えられている。各県毎の採捕・漁獲量の情報は、資源減少の原因を調べる上で非常に重要であり、公表されるべきである。それにより資源減少の原因を特定する事ができれば、それに対する対策を立てられるようになる。

 資源量が減少を続け、資源管理の規制が充分機能しない中、消費者にできる事はあるのだろうか。まず重要なことは、この様な問題がある事を認識することである。例えば、生産者に近いところでは、シラスウナギの漁獲情報や生産者情報を公表する「生産情報公表養殖魚JAS」規格を取得したウナギなども流通し始めている。更にこうした動きを加速させて、蒲焼からシラスウナギまで辿るトレーサビリティ制度を築き上げるためにも、適正に管理されたウナギを求める消費者の声が不可欠である。生産者や流通業界は消費者が何を求めているか非常に敏感なので、消費者の意識の変化が業界を変革するための原動力になる。

 また、ニホンウナギは東アジア地域を大回遊している。日本はシラスウナギの輸出を禁止しているが、輸入はおこなっている。ニホンウナギ生息域の周辺国では、同じウナギ資源を共有し、今後、この地域全体での規制が必要になると考えられる。その時に、県毎の規制では対応できず、県から国、そして東アジア地域へとニホンウナギの資源管理はその主体を変える必要がある。

 最後に、資源利用に関する規制と安定した養殖生産だけが問題なのではないことに言及したい。ウナギ減少の主要な原因のひとつとしては、生息環境の破壊が考えられている(立川, 2001)。かつてウナギは水田にまで生息していたという。水辺の生態系の高次捕食者であるウナギは生物多様性の指標として適していると考えられる(鷲谷、2008)。貴重な生態系の一員であるウナギが育つ環境を復元し、豊かな生物多様性を持つ自然を再生する事が、今、求められている。

 


参考資料:
Tsukamoto K. ほか (2011), Oceanic spawning ecology of freshwater eels in the western North pacific, Nature Communications 2
田中秀樹 (2010). ウナギの完全養殖成功!―ウナギ完全養殖達成の意義と今後の展望―, 養殖研究レター第6号
立川賢一 (2001). ウナギ資源研究の現状, 海洋と生物 133 (vol.23 no.2)
鷲谷いづみ (2008). 生態系ネットワークの再生と生物多様性指標としてのウナギ, 月刊海洋, 号外48

関連情報:
・トラフィックイーストアジアジャパン・レポート
『うなぎヨーロッパおよびアジアにおける漁獲と取引』

・ECのために作成されたトラフィックレポート
『Trade in Anguilla species, with a focus on recent trade in European Eel A. anguilla


 

2011年07月12日
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関連キーワード ウナギ 日本 資源管理 食用

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