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【トラフィックイーストアジアジャパン発 2007年11月13日】
野生生物取引をモニタリングする団体であるトラフィックと国際的自然保護NGOであるWWFは、ロシア政府が報告する漁獲量より50%―90%も上回って、東アジア諸国がベニザケを輸入している実態を報告書にまとめた。
2003年から2005年にかけて公式に提出されたデータを分析したところ、東アジア市場に流入したロシア産ベニザケの量は、毎年8,000 t から15,000 t も公式データを上回っていたと推定される。金額にすれば、毎年4,000万ドルから7,600万ドルに相当する。
「ロシア、日本、中国、韓国の各国政府は協力して、ロシア産ベニザケの合法的な漁業産品と、違法な産品とを市場で区別し、過剰捕獲から守るべきである」とトラフィックイーストアジアのディレクターであるクレイグ・カークパトリックは言う。「ロシア政府の統計では、実際の漁獲量より少なく計上されてしまっている。」統計上少なくなってしまっている理由としては、違法な操業、漁業者による漁獲量の過少申告、政府の統計システムそのものの不備などがあげられる。我々がIUU(違法で、規制がなく、報告されない漁業(Illegal, Unregulated, Unreported))と呼ぶ漁業である。
報告書では、公式データと輸入および市場データとのくい違いを、数学的モデルを用いて推定している。「公式データの150%―190%におよぶという取引量は、極東ロシアではIUU操業が公式統計を40-60%上回っているという推定値に近い」と報告書の執筆者であるシェリー・クラークは言う。
日本は世界でもっともサケの輸入量の多い国であり、ベニザケの冷凍品の半分をロシアから直接輸入している。
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中国では国内消費向けの輸入はほとんどしていない。しかし、低コストでさけを加工する主要集積地となっており、その加工品はほとんどヨーロッパと米国に向かう。中国のバイヤーは、ロシアの業者に対して現金で直接支払うことに抵抗を覚えることがしばしばあり、そのため、韓国の仲介業者を通じて購入する。韓国の仲介業者は、免税措置を受けられる倉庫地区に設備を持っており、低コストで免税用倉庫を提供しているのである。
「韓国に入荷したほとんどすべてのサケは、免税用倉庫に入ってしまい、税関統計にも記録されずに再び出荷される」とトラフィックのクレイグ・カークパトリックは言う。「このやり方では、書類が適切に作成されなくなる機会を明らかに増やしてしまい、サケの由来と最終的な行き先をたどること(トレーサビリティ)をむずかしくしてしまう。」
報告書では、極東のサケ漁業とサケ市場を管理下におくためのいくつかの方法を示している。
そのなかには、1.港など税関での政府のチェックをより厳格にすること、2.公海上でサケの積荷を船同士で載せかえるのをやめること、3.ロシアと東アジア諸国のあいだで、すべてのロシア船籍に関してポート・ステート・コントロール(国際条約で定められた外国船籍を点検する作業)をもっとしっかり実行し、書類偽造や不適切な書類に関する情報を共有するべく確認すること、4.免税措置を受けている倉庫設備の使用に関して透明性を高めること、5.積荷の抜き打ち検査を強化すること、6.サケ製品のラベリングをしっかりおこない、トレーサビリティを向上させること、などがあげられている。
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「政府や税関は、ますます魚のトレーサビリティに関心を払うようになっている。東アジア諸国の魚販売業者は、その魚がどこから来ているのかを明確にすべきである」とカークパトリックは言う。さらに続けて、「MSC(海洋管理協議会)のような製品を認証する仕組みを採用することは、販売業者に商売上の利点を与えることになるだろう」とも言う。
トラフィック イーストアジア ジャパンの石原明子は「この報告書から、カムチャッカにおけるベニザケのIUU漁業が強く示唆された。消費者は、購入時に、どこでどう獲られたものなのか確認することが必要であることを知ってほしい」と語る。
★レポート『Trading Tails: Linkages between Russian salmon and East Asian markets』
→ 全文(英語:PDFファイル)『Trading Tails: Linkages between Russian salmon and East Asian markets(ロシアのサケ漁業と東アジア市場の関連性)』
■本件に関するお問合せ先:
トラフィック イーストアジア ジャパン 石原明子・金成かほる tel. 03-3769-1716 /広報担当 大倉寿之(WWFジャパン兼務)
Richard Thomas, TRAFFIC international email: richard.thomas@trafficint.org
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