鹿児島のウナギ養殖場 ©Vicki Crook/TRAFFIC |
【東京発 2015年7月6日】
東アジアにおけるウナギの生産・消費パターンは絶えず変化しており、新たな市場や取引ルートが生じている。ウナギの保全管理措置の実施のためには、国際的な協同が必要であることをトラフィックの新たな報告書が示した。
トラフィックの報告書
『Eel market dynamics: An analysis of Anguilla production, trade and consumption in East Asia(ウナギの市場の動態:東アジアにおける生産・取引・消費の分析)』での分析により、東アジアでのウナギ利用のデータに著しい相違があることも明らかになった。
「公になっているウナギの生産、取引、消費に関する東アジアのすべてのデータを組み合わせた分析は初めての試みである。この調査は、東アジアのウナギ取引の複雑さの解明を目指すにあたり、重要な第一歩となるだろう」と、トラフィック イーストアジア ジャパンのプログラムオフィサーであり、報告書の著者である白石広美は語る。
ウナギの生産量は、主に養殖の拡大により、過去30年間、次第に増加しており、FAOデータによると、2013年には養殖生産量が全体の生産量の95%を占めた。ウナギの完全養殖は商業化には至っておらず、ウナギの養殖は天然(野生)のウナギの稚魚(シラスウナギ)を育てて大きくすることで成り立っている。生産量の増加のほとんどが東アジアの国・地域で生じており、中でも中国は2013年の世界生産量の85%を占めるほどになっている。
しかし、世界の実際のウナギ生産量と消費量は、ピークを過ぎ減少傾向にある可能性がある。その要因としては、利用可能な天然(野生)資源の減少、稚魚の取引規制、価格の高騰、消費者動向が価格や食の安全を含む様々な問題により影響を受けて変化したことが考えられる。
歴史的には、ウナギ属の国際的な需要は東アジア、特に日本の消費によって牽引されてきた。しかし、世界のウナギ生産に占める日本の消費量の割合は60%から15%まで減少したとFAOデータが示しているのに対し、東アジアの国・地域が公表した別なデータによると、2012年~2013年の日本の消費量は世界生産量の30%~45%と推定され、データ間に大きな相違が見られる。
ウナギ消費国としての日本の重要性は過去10年の間に低下しつつあると考えられるが、日本食が世界で広がるにつれ、ウナギ料理を提供する海外の日本食料理店の数が増加しているとみられる。一方、中国のFAO生産量データと取引データを組み合わせると、過去10年で、中国での消費量が著しく増加し、2012年、2013年には15万tに達したと推定されるが、データの矛盾が明白となっている。
歴史的に、東アジアで養殖・取引される種は、地域に生息するニホンウナギ Anguilla japonicaであった。1990年代以降、ニホンウナギの減少に伴い、ヨーロッパウナギ A. anguillaの稚魚も輸入されるようになった。しかし、国際取引による種への影響に対する懸念から、ヨーロッパウナギは2007年にワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)の附属書IIに掲載され、2010年12月にはEU(欧州連合)からのヨーロッパウナギの輸出が全面的に禁止された。その結果、アメリカ大陸や東南アジアが、東アジアの養殖場向けのウナギの稚魚の重要な供給源となりつつある。
「東アジアの養殖業者は、ある種の価格が高騰したり、手に入らないようになると、別の種を使うようになる。ウナギの稚魚の調達は、ウナギの養殖が最初に始まった日本から、他の東アジアの国・地域に広がり、続いてヨーロッパ、アメリカ大陸へと、そして今は東南アジアへと移り変わっている。市場の移行は、国際的なウナギの取引とともに生じており、結果として合法性やトレーサビリティの確保が非常に困難となっている」と、トラフィックの野生生物取引アナリストであり、報告書の共著者であるビッキー・クルークは語る。
韓国は、日本や中国に比べるとはるかに小さい市場であるものの、トラフィックの分析によると、健康や食の安全の問題を受けて食肉の消費が減少した影響により、ウナギ市場が過去10年で拡大していると考えられる。中国税関の取引データは、中国で生産されたウナギの市場が、ロシアなど他の国にも広がりつつある可能性があることを示しているが、データの相違により、新たな市場の重要性について結論を導き出すのが困難となっている。
生産量のデータに相違が生じた理由としては、公式の報告となるまでに生産量データが数々の仲介者によってやり取りされていること、税関コード間で比較ができないこと、税関コードの誤った適用、養殖生産量の過少・過大報告などが考えられる。
過去10年の東アジアのウナギの稚魚の輸入記録の多くは、輸出国の記録と一致しないことが多い。税関や押収データ、その他の情報によると、ウナギの稚魚が大量にヨーロッパ、フィリピン、インドネシアから東アジアに、また東アジア域内で違法に取引されていることが示されており、東アジアの養殖場で違法に調達された稚魚が依然として使われていることが示唆される。EUが稚魚を輸出禁止として数年経っても未だ中国からの再輸出が続くヨーロッパウナギの合法性だけでなく、東アジアで違法に採捕・取引され続けているニホンウナギの合法性にも疑問がある。
変化し続ける生産(養殖、取引、消費(需要)の動態は、特に温帯域に生息する種にとって、保全に対する懸念である。ヨーロッパウナギは現在IUCNのレッドリストで近絶滅種(CR)に分類されており、ニホンウナギとアメリカウナギ A. rostrata は絶滅危惧種(EN)となっている。熱帯域に生息するウナギ属についてはデータが少ないものの、A. bicolor(一般にビカーラ種と呼ばれる:近危惧種(NT))を含む多くの種について保全に対する懸念が示されている。ビカーラ種は、質感や味が似ているとして、ニホンウナギやヨーロッパウナギの代替として、次の候補に挙げられている。
報告書では、ウナギの調達、養殖、取引におけるトレーサビリティの強化、適切な保全管理の意思決定の発展について、東アジア地域で協同した取り組みに関する見解も示している。
「ウナギという共有資源の利用にあたり、東アジアの国・地域は、各々の変化し続ける役割を認識したうえで、ウナギの保全管理措置の発展・実施に共に取り組んでいく必要がある」と、トラフィックの白石広美は語る。
【注記】
用いたデータには、国際連合食糧農業機関(FAO)の世界生産量・取引の数値、中国・日本・韓国・台湾が養殖場への稚魚の池入れ量の制限に合意した「共同声明」に付属するデータ、うなぎネット、UN Comtrade、東アジアの税関、ワシントン条約取引データベース、文献・オンライン調査、利害関係者への聞き取り、オンライン・実地の市場調査が含まれる。
トラフィックの報告書発表プレスリリース
『Eel market dynamics: An analysis of Anguilla production, trade and consumption in East Asia(ウナギの市場の動態:東アジアにおける生産・取引・消費の分析)』プレス発表
報告書のダウンロードはこちらから:
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