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【フィリピン、パラワン島発 2012年4月28日】
密輸者のカバンに詰め込まれた18頭のフィリピンヤマガメ Siebenrockiella leytensisがフィリピンから香港へ運ばれてきた。その際、密猟者のカバンは60頭以上の他の爬虫類でいっぱいだった。この18頭のフィリピンヤマガメは、4月27日に、無事祖国であるフィリピンへ返還され、カタラ財団(Katala Foundation Incorporated)の保護下で元気にしている。
このフィリピンヤマガメは、2月に香港当局によって委託貨物の一部として発見された。当該種はフィリピンのパラワン島でのみ見られ、絶滅のおそれのあるレッドリストで近絶滅種(CR)に分類されている。密輸者が持っていたのは、マレーハコガメCuora amboinensis 16頭、トカゲ類24頭、ニシキヘビ類16頭、トビヘビ類(gliding snake)1頭、マングローブヘビ Boiga dendrophila2頭、チャマダラヘビ属の一種 Psammodynastes pulverulentus1頭であった。
20頭いたフィリピンヤマガメのうち2頭とマレーハコガメのつがいは、香港のレスキューセンターに到着する前に死に至り、別のマレーハコガメもレスキューセンターで死んだ。
密輸者は「絶滅のおそれのある動植物の保護条例(the Protection of Endangered Species of Animals and Plants Ordinance)」と「動物虐待防止条例(the Prevention of Cruelty to Animal Ordinance)」において有罪となり、8,000香港ドル(およそ83,000円)の罰金を科せられた。
もしこのカメが米国、ヨーロッパ、日本や中国のペット市場に出回れば、この罰金よりはるかに高値が付いただろう。
フィリピンヤマガメとマレーハコガメは一時的な保護場所として香港にある嘉道理農場曁植物園に引き渡された。
嘉道理農場は、香港及びフィリピンのワシントン条約管理当局と共に、このカメをフィリピンに返還することを決めた。
捕獲された場所のわからないマレーハコガメについては、フィリピン環境自然資源省(Department of Environment and Natural Resources of the Philippines)の野生生物保護区局(Protected Areas and Wildlife Bureau)の政府レスキューセンターに引き渡された。フィリピンヤマガメは、生息域内での調査や保全活動で陣頭指揮を執り、唯一生息域外の保障コロニー(assurance colony)を保有するパラワン島のカタラ財団に引き渡された。
カタラ財団はパラワン島を拠点とするNGOであるが、このカメはこのタカラ財団のフィリピン淡水ガメ保全プログラム(Philippine Freshwater Turtle Conservation Program)の象徴種であり、フィリピン政府の環境天然資源省の野生生物保護区局とは協力関係にある。カタラ財団は種の保全のためにフィリピンのCITES管理当局と持続可能な開発パラワン委員会(the Palawan Council for Sustainable Development)と共に活動している。
密猟されるフィリピンヤマガメの多くはペット向けに取引されるが、食肉や薬としての需要によっても脅かされている。
「こうしたカメの返還はとても意味深いものである。種のおかれている状況について社会の関心が高まるだけでなく、違法な採取と取引に対する法執行活動が改善されているよい例である。願わくば、パラワン島にはそれほど特別な種がいるのだという認識が、この島の人々の誇りとして浸透してほしいものだ」とカタラ財団のフィリピン淡水ガメ保全プログラムの代表のSabine Schoppe博士は言う。 「カメたちがこちらに来てまだ1日も経たないが、今のところ元気でよく食べている。」
カメたちは検疫や健康診断を経て、良好な結果が確認された後に野生に返されるだろう。カタラ財団はパラワン島の森林内に現存するカメの生息地を保護するための働きかけもおこなっている。
今回の件は、フィリピン史上初めての野生生物の返還であり、フィリピンにとって歴史的瞬間となった。
「カメたちにとって素晴らしい日であり、野生生物犯罪との闘いにおいて国境を越えた協力が実り、誇らしい」とトラフィックサウスイーストアジアの地域事務局長代行クリス・シェファードは言う。 「これは、違法取引と闘い、押収個体を故郷へ返還するために、政府やNGOがどのようにして連携すべきかを示す素晴らしい事例だ。」
トラフィックの独自の調査では、東南アジアにおいて、珍しい淡水ガメ・リクガメに対する需要の急激な上昇が記録されている。2008年のこのジャカルタのペット市場調査の際は、そのほとんどが違法に入手されたと考えられる48種の淡水ガメ・リクガメが売られていた。
昨年の2011年には「アジア産の淡水ガメ・リクガメの保全ワークショップ」が開かれ、トラフィックも含め世界規模で専門家が集まった。会議では、違法および持続可能でない取引が、絶滅のおそれの高い個体群が存続していく上での大きな脅威となっていることが報告され、こうしたカメを守る法律や条約があってもそれが執行されていないだけということがわかった。
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