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東南アジアにおける違法な野生生物取引と闘うための法執行能力向上のために

2011年01月26日
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110117tortoise-c-TRAFFIC-SAl.jpg 東南アジア中の法執行担当者は、爬虫類の識別や野生生物取引の取り締まりに関連したその他のテーマについてトレーニングを受ける。©TRAFFIC Southeast Asia 110117training.jpg  
ワークショップの様子
©TRAFFIC East Asia-Japan

 アセアン(ASEAN)諸国で起きている数百万ドル規模の違法な野生生物取引に対抗できるように、絶滅のおそれのある爬虫類の識別のトレーニングや、国際的な野生生物保護政策などを習熟するために、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムから法執行担当者が集まった。

 東南アジアは、以前から数十億ドル規模の世界的な野生生物取引のホットスポットである。しかし、木材、鳥類、爬虫類、哺乳類など多くの野生種がこの地域で違法に取引されている。

 アセアン野生生物法執行ネットワーク(ASEAN-WEN)がまとめたデータによると、東南アジア中で2010年の1月から9月の間に行われた200件前後の法執行活動の中で、16.9 t 以上の野生生物製品が押収された。

 ASEAN-WENはまた、毎年ASEAN諸国から中国に向けに1万3,000 t のカメが違法に運ばれているとも推定している。

 ASEAN-WENやトラフィックサウスイーストアジアの専門家は、4日間の「講師養成のためのトレーニング」ワークショップのトレーナーとして参加する。そこでは多くの違法取引のケーススタディーが示される。

 「もし違法な野生生物取引の現在の傾向が野放しのまま放置されれば、これは大量で取り返しのつかない生物多様性の損失を招いてしまう。訓練をおこなう者を訓練するこのワークショップは、こうした傾向を減らし、次の世代のためにこの地域の貴重な植物や動物資源を守るためにも、めったにないチャンスを提供してくれる」とアセアン生物多様性センター(ACB)の事務局長のRodrigo U. Fuentes氏は言う。

 アセアン・プログラム・コーディネーション・ユニット(ASEAN-WEN Program Coordination Unit)のシニアオフィサーのManop Lauprasert氏は、「違法な野生生物取引に関わる犯罪者はよく組織されていて、財源が確保されている。地域を越えて、協力し合い、私たちのスキルや知識、資源を蓄積することではじめて、野生生物の違法取引に対して効果的に対抗できるのだ。」

 現在のトレーニング・コースは野生生物の法執行官が、よく取引される絶滅のおそれのある爬虫類種の識別技術を身につけ、ワシントン条約下の法律など野生生物取引を管理している国際的な規制について習熟し、野生生物の規制に関する彼ら自身の訓練コースを実施するための参加者のスキルを向上させることを目的としている。

 トラフィックサウスイーストアジアの地域事務局長のウイリアム・シャイードラ博士は言う。「私たちは基本的なものから始めている。多くの法執行担当者は野生生物犯罪に関するトレーニングを受けたことがない。このコースでは、適切な人々に必要な技能を伝えている。」

 このトレーニングは、アジア・太平洋生物インフォメーション・イニシアティブ(ESABII)の一環として、日本政府(環境省)とトラフィックが共同で実施したものである。東・東南アジア地域を対象に、生物多様性モニタリングおよびワシントン条約附属書掲載種の研修などの実施を通して、ESABIIを推進し、当該地域の生物多様性保全に貢献するとしたものである。

 本トレーニングコースは、1月17日から21日までマレーシアのクアラルンプールにて開催され、アセアン諸国の代表者が、後日自国でのトレーニングの実施を目的として参加した。詳細は後日、改めてご報告する。

注:
アセアン生物多様性センター(ASEAN Centre for Biodicersity (ACB))は、生物多様性の持続可能な利用や保全や自然財産からの利益の公正で衡平な配分に関するASEAN加盟国10ヵ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)間および関係する各国政府、地域機関、国際機関との協力・調整を手助けする政府間地域機関。

 ACBは、国を超えた生物多様性保全の問題に関する議論・解決を手助けし、主な生物多様性に関連した多国間の環境協定についての教育、および地域・国の状況を評価し適切な対応機構を開発するための知識・能力を向上させることで、政策展開や調整のためのASEAN加盟国の能力開発を想定している。

 ACBはまた、パートナー機関とともに一連の能力強化のワークショップや会議を実施することを通じて、ASEAN加盟国の保護区域(Protected Area)管理者の能力強化を目指している。

 アセアン野生生物法執行ネットワーク(ASEAN-WEN)は、アセアン地域内でのワシントン条約掲載種の違法な利用や取引に取り組むことを目的としている。ASEAN-WENは、アセアン加盟10ヵ国(上記参照)の法執行機関と、ワシントン条約担当当局、税関、警察、検察、政府の野生生物法執行専門機関、その他の国内の関係する法執行機関などを含めた、統合ネットワークである。この10のメンバー・ネットワークは当地域での違法な野生生物取引に対抗するため越境的な協力をおこなっていくことも目指している。詳細についてはこちらwww.asean-wen.org

 トラフィックは、世界規模で違法な野生生物取引に対抗すべくアジアの法執行ネットワークの政府機関を支援している。アセアン諸国や南アジアの野生生物法執行ネットワーク、中国や差し迫った状況の隣国への要求に応じて、法執行のつながりを越えた技術的な支援をおこなっている。こうした技術支援には、政府間の対話の促進、司法分野との連動、現地に基盤をおいたレンジャーと国レベルの機関とのつながりの改善にWWFとともに取り組むことなどが含まれている。

2011年01月26日
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