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保全団体、サメとエイのさらなる保護を求める

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新たな10カ年戦略
保全団体、サメとエイのさらなる保護を求める

2016年03月02日
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■ サメおよびエイの4分の1の種が絶滅の危機に瀕していると推定される

■ エイはサメよりも危機の度合いが高い

■ ヒレと肉の市場需要が過剰漁獲を引き起こしている

■ 科学的根拠にもとづく漁獲・取引制限が早急に必要である

■ これらの種の危機に対処するため専門家が連携している


【コスタリカ、サンホセ発 2016年2月15日】

 国際的な保全団体の専門家グループは、サメや近縁種であるエイの減少に対処するための新たな戦略を発表した。その中で、注目を浴びているサメよりも、エイの方がより危機に瀕しており、保護も遅れていることを警告している。

 保全行動計画にエイを積極的に組み込むことへの要求は、コスタリカのサンホセで開催された「ボン条約(移動性野生動物種の保全に関する条約:CMS)」におけるサメ保全に関する会議に合わせて公表された
『Global Priorities for Conserving Sharks and Rays: A 2015-2025 Strategy(サメ・エイ類保全のための世界的な優先事項:2015-025年戦略)』
の一部である。

 10カ年戦略の文書は、サメやエイの脆弱性のある個体群の保全および回復のため、早急に必要な行動を取ることを世界中の国々に求める一方、ガンギエイ類・アカエイ類・ノコギリエイ類・サカタザメ類・イトマキエイ類を含むエイをひとつのグループとして、これらよりもよく知られている近縁種であるサメと同様、多くの注目と投資の対象となるべきであると主張する。約650種のエイの中には、絶滅寸前のスモールトゥース・ソーフィッシュ(smalltooth sawfish)やブラジルサカタザメ(Brazilian guitarfish)などのサメに似たエイも存在する。

 「不十分な漁業管理による過剰漁獲は、サメやエイにとって、唯一最大の脅威である」とワイルドライフ・コンサベーション・ソサエティ(WCS)のサメ・エイ類のコーディネーターであるAmie Bräutigam氏は述べた。「特にエイにおいては、漁業管理の改善と保全努力の拡大がこの新たな戦略の主要な部分を占めている」。

オニイトマキエイ Manta birostris はサメよりも危機に瀕している
© Cat Holloway / WWF

 この世界的な戦略は、IUCN(世界自然保護連合)のサメ専門家グループから技術的なガイダンスと意見を受けて、Shark Advocates International、Shark Trust、トラフィック、WCS、WWFの専門家による広範なデータの分析と統合を基礎として策定された。これらの団体は、「サメ・エイ類グローバルイニシアチブ(Global Sharks and Rays Initiative:GSRI)」を通じて、この戦略を実行に移すために連携してきた。

 「私たちは、サメとエイの世界的な保全戦略を各国政府と共有し、行動する時機が熟している多くの共有目標に向かって具体的な手段を議論したいと考えている」とShark Advocates Internationalの代表であるSonja Fordham氏は述べた。「課題は手ごわく、多くの問題が残っているが、絶滅の危機に瀕した多くのエイを保護するためにボン条約の義務を果たし、大量に漁獲されているサメ類の漁獲量を制限するための手段と方策はすでに十分である」。

 戦略は、エイに対する一層の注目の必要性を明らかにするとともに、過剰漁獲をなくし、持続可能性を担保するためには、科学的根拠にもとづくサメとエイの漁業・取引の制限が早急に必要であることを強調している。

 「サメやエイの個体群の中には、長期的に漁業を支えることができる種もある」とShark Trustの保全ダイレクター(Director of Conservation)であるAli Hood氏は述べた。「持続可能な利用は、保全への実用的なアプローチであり、自然界、生計の重要性、製品の文化的意義および完全利用による廃棄の最小化の必要性を尊重するものである。また、科学的根拠にもとづいた個体群の管理に対する誠実な義務を必要とするものであり、10カ年戦略の重要な目標である」。

 トラフィックの水産プログラムリーダーであるグレン・サント(Glenn Sant)は、「サメおよびエイの保護措置は、実際におこなわれてこそ有効となる。取引チェーンに沿って漁業製品のトレーサビリティを確保することは、あらゆる規制の効果を評価し、最終的に、影響を受けている種にとって真の保全利益をもたらすためには必要不可欠である」と警告した。

漁業網にかかったアカエイの一種 Dasyatis pastinaca
(イタリア、サルデーニャ)
© Wild Wonders of Europe / Staffan Widstrand / WWF

 策定者らは、ボン条約に掲載されているサメ類とエイ類について、条約の義務に沿っていくつかの重要な措置を講ずるよう締約国に求めてきた。その措置には、国レベルで、危機に瀕した5種のノコギリエイ類および、すべてのオニイトマキエイ類ならびにイトマキエイ類の厳格な保護をおこなうこと、アオザメ、シュモクザメ、オナガザメなど、大量に漁獲されている高度回遊性のサメに国別および国際的な漁獲制限を採用することが含まれる。

 長年、アジアにおけるフカヒレの需要がサメの過剰漁獲の主要な要因だと考えられてきたが、戦略では、サメやエイの肉の市場需要も非常に多く、かつ増加しているとする近年の調査結果を強調している。

 「国際的に取引されるサメやエイの肉の量は1990年代から倍増しており、現在は、これらの種の過剰漁獲を引き起こすという点においては、フカヒレと同じくらい重要であると考えられている」とWWFインターナショナルでGSRIに係わるリーダー、アンディ・コールニシュ(Andy Cornish)は述べた。「現在、大部分が持続不可能で、追跡不可能な供給源から調達されているサメ、エイのヒレや肉の世界的な需要を大幅に削減することが、この戦略の不可欠な部分である」。

 戦略はまた、世界のサメおよびエイの約半数の種がIUCNによって「情報不足」と分類されていることも注目している。「情報不足」は、個体数の健全さを評価するための情報が不足していることを意味し、これによって保全行動がさらに妨げられる可能性がある。

 「絶滅のおそれのある種のIUCNレッドリストにおける私たちの分析は、世界の軟骨魚類の4分の1が絶滅の危機にさらされていると示す。ノコギリエイ類、サカタザメ類、トンガリサカタザメ類、淡水のサメ・エイ類など絶滅の危険性が最も高い70種の絶滅を防ぎ、情報不足となっている600種や新たに発見された種の保全の状況と必要性を明らかにするためには、取り組みの大幅な変更が求められる」とIUCNのサメ専門家グループの共同委員長であるNick Dulvy氏とColin Simpfendorfer氏は述べた。

 GSRIは、マッカーサー基金(John D. and Catherine T. MacArthur Foundation)およびレオナルド・ディカプリオ基金(Leonardo DiCaprio Foundation)から一部支援を受けている。

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