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2014年9月16日、17日に開催された「ウナギの国際的資源保護・管理に係る第7回非公式協議」の結果、ウナギの稚魚の池入れの制限とその実施のための国際的な養鰻管理組織の設立が合意された。2014年6月、ニホンウナギAnguilla japonicaは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに絶滅危惧種(EN)と掲載され、資源管理の必要性が求められている。トラフィック イーストアジア ジャパン及びWWFジャパンは、この合意を、重要なスタート地点に立ったものと歓迎する。
ニホンウナギの産卵場所は一カ所であるのに対し、生息域は、日本、中国、台湾、韓国などに及ぶため、ニホンウナギの資源モニタリングや資源管理を行っていくためには、関係国が協力して対処していく必要がある。今回の協議で、世界最大のウナギ消費マーケットを有する日本の主導により、ニホンウナギの資源状態への懸念がすべての関係国により共有され、保存管理のための組織設立への合意に至ったことは高く評価できる。
しかし、一方でニホンウナギの持続可能な利用に向けた取り組みはスタートラインに立ったに過ぎず、今後、様々な課題に対処していく必要がある。
今回、ニホンウナギの稚魚の池入れ量を直近の数量から20%削減することが合意されたが、この数字に科学的根拠があるとは言えず、現時点では資源の回復や適切な管理を約束するものではない。日本の場合には、2013-2014年の国内の池入れ量が27tであったことから、上限は21.6tとなる。しかし、稚魚が不漁であった2011-12年、2012-13年の池入れ量がそれぞれ約16t、約13tであったことを考えると、不漁の場合には、上限が意味をなさなくなる可能性もある。
また、今回設立が合意された国際的な養鰻管理組織は、各国の養鰻管理団体だけで組織される任意団体であり、法的拘束力を持つ地域漁業管理機関(RFMO)とは大きく異なるものである。保存管理措置の施行や効果を客観的に監視・検証するためには、行政や研究者、NGO等様々なステークホルダーの関与が必要であることから、養鰻管理組織とは別に、法的拘束力のある枠組みの設立を目指す必要がある。
ニホンウナギの絶滅を防ぐためには、生息域の改善や放流の効果の調査など、様々な取り組みが必要であるが、ニホンウナギの利用に関し、トラフィック及びWWFが特に必要と考えるのは以下の3点である。
◆ 稚魚・成魚の漁獲、養殖の記録及び報告の徹底
◆ 稚魚まで遡ることのできるトレーサビリティの確保
◆ 科学的知見に基づき、予防原則に従った資源回復計画の策定
1. 稚魚・成魚の漁獲、養殖の記録及び報告の徹底
漁業・採捕・養殖に携わる関係者による記録や報告の遵守は、貴重な自然資源を利用する上で果たすべき最低限の責任と考えられることから、水産庁や関係都道府県は、内水面漁業の振興に関する法律や条例等を適用し、漁業者・採捕者に対して、記録及び報告のさらなる徹底を求めていくべきである。特に、稚魚に関する採捕の記録や報告を徹底させることのむずかしさが指摘されているものの、正確な採捕データの収集とモニタリングは、効果的な資源回復計画を策定するにあたり、不可欠であると考えられる。
2. 稚魚まで遡ることのできるトレーサビリティの確保
ニホンウナギについては、稚魚の密漁や違法取引の存在が指摘されている。今回立ち上がった新たな枠組みは、これらを是認・黙認するものであってはならず、稚魚まで遡ることのトレーサビリティ及び取引の透明性の確保に向けて、引き続き尽力すべきである。
3. 資源回復計画の策定
危機的な枯渇状態にあるニホンウナギ資源の回復を図るにあたっては、科学的知見に基づいた長期的な資源回復計画が策定されるべきである。しかし、実効性のあるニホンウナギ資源回復計画を検討するにあたって科学的情報が十分とはいえない現段階においては、予防原則に従い、より厳しい管理措置を導入したうえで順応的管理を行うべきとトラフィック及びWWFは考える。
今回、国際的な管理の枠組みが設立されるに至ったが、今後、漁業管理や生産量の調整を実施しながら、ニホンウナギの持続可能な利用を目指していくためには、生産、流通、小売、消費者、メディアの十分な理解と長期的な協力が不可欠である。
トラフィックでは、ウナギの取引や供給量の変化に関する調査を実施していく予定である。また、WWFジャパンでは、持続可能なニホンウナギの取り扱いについて、流通関係者と意見交換を続けていく。
■ お問合せ先:
トラフィック イーストアジア ジャパン 白石広美
Tel:03-3769-1716 E-mail:TEASjapan@traffic.org
WWF広報室
Tel:03-3769-1714 E-mail:press@wwf.or.jp
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