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ニホンウナギを含めたウナギの資源管理が急務に

2014年06月18日
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写真上:ヨーロッパウナギの稚魚
©Richard Thomas / TRAFFIC

 6月12日に改訂されたIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにニホンウナギ Anguilla japonica が絶滅危惧種(EN)として掲載された。以前より近接絶滅種(CR)として掲載されていたヨーロッパウナギ Anguilla anguilla の評価は変わらず、近年、東アジアで養殖が盛んになっている Anguilla bicolor (一般的に、ビカーラ種と呼ばれる)については、低危険種(LC)から近危急種(NT)となり、絶滅リスクが高まったと判断された。世界に19の種・亜種が存在するといわれるウナギの資源状況が明らかになってきている。

 ウナギ属 Anguilla spp. のうち、これまで主に食用とされてきたヨーロッパウナギ、ニホンウナギ、アメリカウナギ A. rostrata 、オーストラリアウナギ A. australisに加え、近年では、 A. bicolor やオオウナギ A. marmorata も食用とされるようになってきている。ウナギは、世界総生産量の約95%が養殖によるものであり(FAO 2012年)、天然のシラスウナギを種苗として採捕したものを育てることで生産がおこなわれている。

 「ニホン」という名前がついているが、ニホンウナギの生息域は、日本、中国、台湾、韓国などに及ぶ。マリアナ海域で孵化したレプトセファルス(シラスウナギの前段階)は、黒潮などの海流に乗って運ばれ、各国の河口域にたどりつき、河川や沿岸域などにおいて何年もかけて成長し、また産卵場に向けて旅立つのである。

 IUCNのアセスメントにおいては、ニホンウナギが減少した要因として、過剰漁獲のほか、海洋環境の変化(エルニーニョ、台風、地球温暖化など)やダム等の河川構造物の設置、水質汚染などが挙げられている。ニホンウナギの個体数の減少は日本だけの問題にとどまらず、また、ウナギの生態にはまだ分かっていない点も多い。ニホンウナギの生息国では、連携しながら早急に資源管理を強化する必要がある。

 レッドリストで最も絶滅リスクが高いと判断されているヨーロッパウナギは、唯一ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)に掲載され、国際的な規制がなされている種である。2007年にヨーロッパウナギのワシントン条約への掲載が決定された際は、まだIUCNのレッドリストでは評価がなされていなかったが、1980年から2005年までの間に、シラスウナギの採捕量が平均95%から99%も減少したという資源の枯渇が指摘された。さらに、シラスウナギが高値で取引されていること、透明性に欠ける取引の存在、シラスウナギの50%以上が養殖のためにアジアに輸出されていることなどの取引の側面も問題視された。

 ニホンウナギもまた、国際的に取引がなされている種である。ウナギは、日本だけでなく、中国、台湾、韓国にとっても、経済的に貴重な野生生物であり、減少しつつあるウナギの稚魚の確保にどの国も躍起になっているのである。日本では、養殖に使われる稚魚の約半分を輸入に頼っているうえ、活ウナギ、ウナギ加工品としても、日本で消費される量の半分以上を輸入している。

 また、ウナギは密漁や密輸が大きな問題となっている。例えば、2013年度(2012年12月~2013年3月)の日本でのニホンウナギの稚魚採捕量は、各県による報告量を合計した量と池入れ量(国内の養殖場に入れられた量)に大幅なかい離があった。また、A. bicolorなど数種のウナギが生息するフィリピンは、シラスウナギの輸出を2012年に禁止したにも関わらず、日本の貿易統計によると、2013年のフィリピンからのシラスウナギの輸入量は2トンを超えるものとなっている。ウナギの資源管理は必須であるが、資源管理の効果を無効にしかねない密漁、密輸の問題にも、同時に厳格に取り組む必要がある。

 さらに、今後、ニホンウナギの資源管理を強化した場合、また、さらなる個体数の減少が見られた場合、他のウナギの種への漁獲圧力が高まることが懸念される。日本、中国、台湾、韓国など主な養殖国で近年、養殖が始まっている A. bicolor については、主な生息国であるインドネシアとフィリピンがシラスウナギの輸出を禁止していることを踏まえ、養殖国が連携して、 A. bicolor を含む種の自国での養殖の規制を含めた措置を検討すべきである。

 店頭や飲食店で消費されるウナギが持続可能な漁業・養殖によるものであり、また、法律や規則に従って採捕、取引されたシラスウナギを使っているということを明らかにするトレーサビリティの確保も、今後取り組むべき課題である。現在のウナギ製品の表示としては、ニホンウナギでの表示が奨励されているだけであるが、さらなる表示方法の検討が必要である。

 ウナギの問題に対し、日本は、国内のウナギの資源管理体制を強化するとともに、ニホンウナギの漁獲、養殖、消費している中国、台湾、韓国と共同して、資源管理を進める必要がある。また、ウナギの世界第一の消費国として、他のウナギの種に関連しても、ウナギの資源管理体制が不十分と考えられる国や地域のガバナンスの強化を支援していくことが求められる。

 現在、トラフィックでは、フィリピンでのウナギの資源管理に寄与するため、フィリピンからのウナギの国際取引に関する調査を実施している。また、WWFジャパンでは、持続可能なニホンウナギの取扱いについて、流通関係者と意見交換をおこなっていく。


【報道発表資料】
6月18日プレスリリース

【関連記事】
http://www.trafficj.org/press/fisheries/n121026news.html
http://www.trafficj.org/press/fisheries/j110303seminar.html
http://www.trafficj.org/press/fisheries/j20090313news.html

2014年06月18日
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