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-トラフィックとWWFは報告書をまとめ、警鐘をならす-

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メバチの危機的状況に目を向けるべき
-トラフィックとWWFは報告書をまとめ、警鐘をならす-

2007年11月21日
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071121_big_eye_tuna.jpg 市場にならぶメバチマグロ、ハワイ ©WWF / Lorraine Hitch

【英国、ケンブリッジ発 2007年11月21日】

 不適切な漁獲を取り締まるべき当局が、メバチにも過剰な捕獲がおよんでいる現状を認識できていないがために、このマグロは危機的状況に置かれている。

 野生生物取引をモニタリングする団体であるトラフィックがこのほど新たにまとめた報告書によると、太平洋東部では、メバチの漁獲量の最大60%がまだ繁殖能力のない幼魚であり、その漁獲の割合は増加傾向にある。

 「成魚に達する前に幼魚を捕獲してしまうことは、マグロ資源の持続可能性を脅かすことになり、日本における価値の高い刺身のためのマグロを入手するのが困難になってしまうことを意味する」とトラフィックの海洋プログラムリーダーであるグレン・サントは言う。「刺身として食卓に上る前に、缶詰という形でメバチは一生を終えることになる。こうして、マグロ資源は、枯渇の瀬戸際に立たされている。メバチ漁業の生物学的、経済学的な未来は深刻な危機に直面している。」

 今回の報告書によれば、太平洋東部、太平洋中・西部、大西洋、インド洋におけるメバチはすべて過剰に漁獲されるか、それに近い状態である。(表を参照)   大西洋では資源の減少が続いており、この漁獲量でも過剰である。

 メバチは日本の刺身市場で価値が高いが、適切に管理された漁業をおこなわなければ、大西洋のクロマグロやミナミマグロのように絶滅の危機に瀕してしまうだろう。すでにIUCNのレッドリストで絶滅危惧種に分類されているのが現状だが、さらにひどくなるおそれがある。かつて刺身は日本が唯一の大きな消費国であったが、今では米国、EU各国、韓国、台湾、中国でも顕著に消費が増えているのであるから。

 危機を回避する方法としては、予防原則に立った漁獲枠の設定、メバチの資源回復計画の導入、幼魚の捕獲禁止、漁獲量についてのより正確なデータ収集(インドネシアやフィリピンなどにはFAOデータがない)などがあげられる。データ不備の例をあげると、日本、EU、米国の輸入統計からインドネシアは2004 年に8821 t 輸出していることがわかるが、FAOのデータ上はゼロである。                                     

 科学的調査が示すところでは、メバチの漁獲量を大きく減らす必要があるが、この科学的助言は顧みられることがなかった。公海でのメバチは獲り尽くされようとしている。世界各国が協調して効果的な措置を講じなければ、重要な水産資源が永遠に失われてしまうことになるだろう。

 報告書によれば、公海での漁業を規制すべき責務を負う国際的な枠組みであるRFMO(地域漁業管理機関)に所属する各国政府は、多くの場合、科学的助言への対応が遅く、メバチの過剰漁獲の問題にきちんと取り組めていない。また、UNFSA(国連公海漁業協定)のもとでの、法的な義務を満たすことができないでもいる。

 メバチの資源が枯渇すれば、水産業に大きな負の経済的影響を与えるだろうし、関連した加工産業や流通業界にも影響をおよぼすだろう。そして、メバチの漁業船団からの収入に頼っている数々の島嶼国も打撃を免れない。

 今回の報告書は、太平洋中西部におけるメバチの管理を担当するWCPFC(西部太平洋マグロ類委員会)が、12月3日~7日にグアムで開催されるのにあわせてまとめられたものである。トラフィックでは、WCPFCのメンバー各国が、その国際的責務を果たすように行動することを求めるものである。そして、手遅れになる前に、「メバチの漁獲量をWCPFC各メンバー国は減らすべきである」という科学委員会の勧告を履行することを求める。 

図・表など補足資料はこちら

報告書(英文:PDFファイル)は、こちら With an eye to the future: addressing failures in the global management of Bigeye Tuna


補足資料
-2007年11月21日報道発表 「メバチマグロの危機的状況に目を向けるべき」-

メバチマグロの資源をめぐる状況

  持続可能な漁獲量の最大値
(Maximum Sustainable Yield)
2005年の漁獲量
大西洋 93,000-114,000 t *
60,453 t
インド洋 111,200 t
112,400 t
太平洋東部 106,722 t
102,376 t
太平洋中・西部 110,000-120,000 t
157,102 t
*大西洋のMSYは90年代半ばには7万tだった。現在の10万t前後という数量は大きく、今後見直される可能性がある。
出典:Hampton, Langley and Kleiber2006 Stock Assessment of Bigeye Tuna in the Western and Central Pacific Ocian; ICCAT2005 Report for Biennial Period; IATTC2006 Report of the 74th Meeting of the inter-American Tropical Tuna Commission; IOTC2006 Report of the Ninth Session of the Scientific Committee;WCPFC2006 Scientific Committee Second Regular Session

 

FAO統計による輸入数量 (単位: t ) の国別グラフ

鮮魚でのメバチマグロの輸入国(2004) 冷凍魚でのメバチマグロの輸入国(2004)
071121-2-graph1.gif 071121-2-graph2.gif
出典:FAO2007 Species Fact Sheet Thunnus obesus

<ひとくちメモ>

1.1995-2005年の漁獲量の上位国は日本(23.5%)、台湾(19.5%)、インドネシア(7.6%)、スペイン(7.1%)。2005年だけの漁獲量をみても、この順位は同じで、それぞれ19.1%, 18.3%, 8.9%, 6.4%。
2.IUU漁業(違法で、規制のない、報告されない漁業)が脅威となっている。輸出入の統計をもっと厳密にとることで、IUU漁業を減らしていけるはず。
3.持続的な漁業のためには、MSCのような漁業認証制度を漁業者、加工業者、小売業者等のあらゆる段階で導入することが必要。そうすれば消費者が由来のたしかな魚を選択できるようになる。

■上記データの詳細についてはレポートをご参照ください。

★ 報告書(英文:PDFファイル)は、こちら With an eye to the future: addressing failures in the global management of Bigeye Tuna

 

 


■ 詳細に関するお問合せ先
トラフィック イーストアジア ジャパン 石原明子 tel03-3769-1716/広報 大倉寿之(WWFジャパン)
Glenn Sant
, TRAFFIC international (Global Marine Programme) email: GSant@trafficint.org

2007年11月21日
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関連キーワード マグロ レポート 漁業管理 食用

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