ホーム>野生生物ニュース>ワシントン条約・法律ニュース>【シンポジウム開催報告】ワシントン条約の動向と日本への期待
<ワシントン条約40周年記念シンポジウム>
基調講演をおこなうワシントン条約事務局長スキャンロン氏 ©トラフィックイーストアジアジャパン
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【東京発 2013年8月】
トラフィックイーストアジアジャパンは、今年で40周年を迎えたワシントン条約(正式名称:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)を記念したシンポジウムを、条約事務局長のジョン・スキャンロン氏をお招きして、8月21日に開催した。
『ワシントン条約の動向と日本への期待』と題したこのシンポジウムは、総勢200名近くの参加者を迎え、自由民主党副幹事長/政調環境部会長北川知克衆議院議員及び外務省杉中淳氏の挨拶により幕を開けた。スキャンロン事務局長による基調講演では、ワシントン条約の歩みと日本の貢献、また今年おこなわれた締約国会議での主要な決定について紹介がなされた。続く第1部では「野生生物取引の国際動向と日本」に焦点をあて、第2部では「責任ある水産種の管理」のテーマのもと、行政、研究、NGO、漁業者などによる幅広い講演が注目を集めた。
スキャンロン事務局長は、ワシントン条約の歩みを振り返りながら、1980年に条約に加盟した日本がこれまで国内管理の整備などを通して条約の施行に積極的に取り組んできたことを称賛した。また、今年3月にバンコク(タイ)で開催された第16回締約国会議における重要な進展として、数多くの木材種の附属書掲載が実現したことをはじめ、資源の枯渇が懸念されるサメ類の附属書掲載が決定したこと(日本は留保を付している*)、並びにゾウやサイの密猟危機に対処するための緊急的アクションが採択されたことなどを紹介した。さらに、冒頭挨拶で外務省から言及のあった、新規加盟国の支援などの日本政府による新しい条約支援の取り組みを歓迎するとともに、水産種の掲載については、「日本は行政と民間の両方で非常に水産業に関する深い知見と経験を持っている。今後、附属書掲載の実施支援において、日本政府(水産庁)をはじめ、漁業やNGOなど民間セクターとの協力の可能性を探っていきたい」と、日本への期待を述べた。
©トラフィックイーストアジアジャパン
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第一部:野生生物取引の国際動向と日本
近年状況が悪化しているゾウやサイの密猟と違法取引の動向とそれに対する世界レベルでの最新の取り組みにつき、トラフィックイーストアジアジャパン代表が紹介した。発表の中で、国際社会が日本に期待する役割として、途上国への資金面・技術面での支援をはじめ、過去に象牙や犀角の国内需要を減らすことに成功してきた日本が、その経験を現在需要が急増しているアジアの消費国での対策に役立てる可能性などを例に挙げた。
国内レベルでは、ワシントン条約対象物の税関における差し止めの動向、および「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」による対象種の国内流通の管理に関して、条約管理当局である経済産業省と科学当局である環境省がそれぞれ発表した。種の保存法に関しては、今年6月の法改正で進展のあった、罰則や規制の強化についても紹介された。
第2部:責任のある水産種の管理-サメを事例として-
本セッションでは、様々な視点からの講演がなされた後、パネルディスカッションがおこなわれた。
国際的な視点として、トラフィック水産取引プログラムリーダー、グレン・サントから、世界のサメの輸出入の傾向や、地域漁業管理機関やワシントン条約などの国際的枠組みの役割について意見が述べられた。日本の水産庁からは、サメの保全管理に対する日本政府の考えと実際の取り組みについて紹介された。また、両者から、包括的なサメの資源管理の一環として、今回ワシントン条約の附属書掲載が決まった種の取引規制を効果的に実施していくためにクリアしなければならない課題が挙げられ、今後一層の協力の必要性が浮かび上がった。
地域的な視点として、気仙沼遠洋漁業協同組合から、気仙沼の震災復興の基軸としての持続可能なサメ漁業への取り組みが紹介された。発表の中で、一部の海外メディアによる気仙沼サメ産業へのかたよった批判的報道に対する遺憾の意が表され、持続可能な漁業や保全への取り組みを発信していくことへの決意や、魚食の大切さが訴えられた。研究者の視点として、北海道大学から、気仙沼の復興に向けて、持続可能な漁業と加工業を中心とした再生がいかに重要であるかが述べられた。
シンポジウムには、一般と方(会社員、学生など)をはじめ、メディア、水産/漁業関係者、民間NGO、研究者、政治家、政府関係者など幅広い参加者が集まった。開催後のアンケートでは、「ワシントン条約の国際的背景から国内事情までよくわかった」、「野生生物取引の問題に関して最新の知見を得た」などの声が多く寄せられ、今回のシンポジウムを通して、普段は関わりの薄い国際的テーマの下で、野生生物の大量消費国である日本の立場を今一度振り返ることにつながった。
また、サメの管理に関しては、様々な分野の講演者が一堂に会したことで多角的に話が展開し、貴重な機会となった。立場や見解の違いはあるが、「持続可能な漁業と取引」が国際レベルから地域レベルまで共通する目標であるという認識が共有されたことは、今回のシンポジウムの大きな成果の一つであったと言える。今後、サメ類のワシントン条約対象種に関する様々な施行準備や、地域漁業の取り組みが進むにあたり、責任ある漁業と取引を可能にするためのトレーサビリティーの仕組みを確保することも重要である。このシンポジウムをきっかけに、ステークホルダー間の協力が生まれることを期待したい。
*日本政府は、ヨゴレ Carcharhinus longimanus、アカシュモクザメ Sphyrna lewini, ヒラシュモクザメ S. mokarran, シロシュモクザメ S. zygaena、 ニシネズミザメ Lamna nasusの附属書掲載に対し留保を付した。
なお、留保に際して補足声明を公表し、掲載施行への協力を含めサメの保全管理に協力していく姿勢を示している。声明には、地域漁業管理機関で関係国と協力し、引き続きサメの保全に取り組むこと、国内法に基づき輸出許可書発行手続きを踏むこと、施行準備期間に技術的観点から貢献する用意があることなどが述べられている。
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