
ホーム>野生生物ニュース>ワシントン条約・法律ニュース>特定外来生物の第二次指定に際しての意見
―特に、クワガタムシ・カブトムシに関して注意喚起しておきたいこと―
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本日の特定外来生物等専門家会合で、特定外来生物の第二次指定生物の候補が決定した。今回の第二次指定全体に係る見解は、WWFジャパンと同じであるが、トラフィックジャパンとして、特に次の生物に関して、考えを補足しておきたい。
近年、外国産のクワガタムシ・カブトムシが人気を博している。1999年に植物防疫法によって一部の種が輸入を認められて以降、輸入可能な種は増える一方であり、今や約550種もの外国産のクワガタムシ・カブトムシが国内に流通できるようになった。植物防疫法は、輸入生物が日本の有用植物(農作物など)に対して害を及ぼすか否かをみるものであり、生態系への影響がないとして解禁されたものではないことに留意したい。また、解禁当初は、マニア層が専門店などで買い求める例が多かったが、このところ、外国産の甲虫を登場させる子ども向けのアーケードゲームとその関連商品、アニメの人気が高まり、生きた外国産クワガタムシ・カブトムシが、スーパーマーケットなどの身近なところで容易に入手が可能な状態になっている。
昨年、外国産クワガタムシ・カブトムシに関する国内販売の市場調査を報告書としてまとめたトラフィックとしては、次の通り意見を申し述べておきたい。(報告書『カブトムシとクワガタムシの市場調査』(2004トラフィック イーストアジア ジャパン)の頒布要領は次の通り。)
外国産のクワガタムシ・カブトムシは、第二次指定においても特定外来生物に指定されず、要注意外来生物にとどまった。専門家会合によれば、その理由は、在来種との交雑は実験室レベルでは確かめられているが、野外における交雑の実態は確認途中であること。また、在来種との餌資源をめぐる競合も科学的な調査が十分ではなく、在来種を圧迫するものとは現段階では言い切れないこと、などであった。
しかしながら、年に100万頭(2004年植物防疫所調べ)を超える外国産のクワガタムシ・カブトムシが、輸入されていると言われ、すでに野外で外国産クワガタムシが発見されている事実もある。これだけの数量が我が国に輸入されているとなると、今後の調査によって影響の実態が明らかになったときには、対策を打つには遅きに失しているおそれもある。もっとも、飼育者には低年齢層の子どもたちが多く含まれることを考えると、厳しい法規制が逆効果を生じる懸念は認めざるを得ない。飼育放棄による大量遺棄は、問題をかえって大きくしかねないからである。とはいえ、本来的には、予防的な措置として、外国産クワガタムシ・カブトムシの輸入を速やかに規制するのが適切であるとの立場をトラフィックジャパンは変えるものではない。
これらのことから、現時点では、どの要注意外来生物にも増して、普及啓発の必要性が高い生き物であることを指摘しておきたい。つまり、外国産のクワガタムシ・カブトムシの購入者には、野外に逃げ出したときの生態系への影響について、わかりやすく説明し、理解を得た上で必ず販売するという販売者側のモラルが求められる。
また、日本国内に流通する外国産のクワガタムシ・カブトムシの多くが、東南アジアや南アジアなどの熱帯性気候の土地に起源をもつ。インドやネパールなど、原則としてすべての野生生物の捕獲や輸出が規制されている国に由来する種が、日本で販売されている例は見過ごせない。原産国の生態系に悪影響を及ぼす懸念があるからである。日本は、外国産のクワガタムシ・カブトムシをのぞいても、野生生物とそれから作られる製品の大量消費国であり、世界的にみて野生生物の存続を左右するところの大きい国である。
在来種を守ること、子どもの自然環境への健全な感性を育むこと、原産国の生物資源を保護することなどの観点を総合的に考慮して、関係業界各層が、昨今の外国産クワガタムシ・カブトムシ人気に対し、普及啓発の観点から賢明な対応を取られることを期待する。
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