
![]() アジアでは少なくとも1,755頭に相当するトラの体の一部が押収された © Kanitha Krishnasamy / TRAFFIC |
【南アフリカ共和国、ヨハネスブルグ発 2016年9月29日】
トラフィックとWWFの新たな報告書により、アジアにおいて、トラの取引の減少を示す証拠がなく、2000年から2015年までの間に少なくとも1,755頭に相当するトラの体の一部(平均で一週間に2頭以上)が押収されたことが明らかになった。
南アフリカで開催されている世界最大の野生生物取引に関する会合において、トラの違法取引に関する重要な議論が行われるのを目前に、報告書『Reduced to Skin and Bones Re-examined(皮と骨に成り果てる:再点検)』により、2000年以降、アジア中でのトラおよびトラ製品の押収記録が801件に上ったことが明らかになった。
野生のトラは3,900頭しか残っていないと推定され、トラの押収のうち、間違いなく飼育下繁殖に由来するものが増えつつあることが証拠として示されている。2012年から2015年に押収されたトラの少なくとも30%が飼育下繁殖に由来するトラのものであった。生きた個体の押収増加は、トラ牧場の増加と直接関係すると考えられている。
全体の押収の中で、インドによる報告数が最も多い一方、取引業者は依然として、以前特定された、タイからラオスを通じてベトナムまで伸びる取引ルートを利用している。これら3カ国では、トラ牧場の数が増加している。
「この分析は、トラの体の一部および製品の違法取引が、保全における重要な懸念であり続けていることを明確に示す証拠である。アジアでは、政府がトラ牧場を閉鎖すると繰り返し約束しているにもかかわらず、これらの施設が盛んとなっており、違法取引をあおる一翼を担っている」と、トラフィックの事務局長であるスティーブン・ブロード(Steven Broad)は述べた。
今週、180カ国を超える国の代表が「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の第17回締約国会議に出席しており、環境保全関係者は、中国、ベトナム、タイ、ラオスを含むトラ牧場のある国に対し、これらの施設を段階的に廃止し、最終的に閉鎖するに至る明確なスケジュールを提出することを約束するよう促している。
先週、ラオスは、ワシントン条約において、野生生物取引の規制や管理が不十分であると指摘された後、自国のトラ牧場を段階的に廃止する方法について議論すると発表した。タイもまた、悪名高いトラ寺院を取り締まるとともに、すべてのトラの繁殖施設を調査すると誓約した。
「アジア中で飼育下繁殖のトラの取引への犯罪組織の関与はますます増えており、法執行の取り組みを台無しにするとともに、需要をあおる手助けをしている。トラの生息国は、早急にトラ牧場を閉鎖しなければならない。さもなければ、野生のトラの将来は皮と骨だけになってしまう」と、WWFのワシントン条約代表団長であるGinette Hemleyは述べた。「ラオスとタイは正しい方向に踏み出すことを発表したが、今すぐ行動に移す必要があり、また他の国も"すべてのトラ牧場を閉鎖する"と示された同じ道に迅速に進むべきである」。
最近の押収で、ベトナムの取引の多発地帯が目立っている。ベトナムは、ワシントン条約締約国会議において、犀角、象牙、トラの違法取引への対処に進捗がみられない点を追及されている。
トラの密猟と協調的に闘う動きの中で、インドは第17回締約国会議において他国政府に対し、データベースにある野生のトラのカメラトラップの画像と比較するために、押収されたトラの皮の証拠写真を共有するよう呼び掛けている。トラの縞模様は一頭ずつ異なっており、人の指紋のようなものであることから、執行機関およびトラの生物学者が密猟されたトラを識別し、出所を追跡するのに役立つ。
トラおよびトラの製品の取引は数十年間国際的に禁止されているが、違法取引のための密猟が、トラの生存にとって最大の直接的な脅威となっている。
「重要な決定を3年後の次のワシントン条約の会議まで延期することはできない。そのようなことになれば、近年のトラの保全における重要な前進が台無しとなるリスクが生じる」と、Hemleyは語った。
過去に発行した同様の報告書:
2013年発行(2000~2012年のデータより)
『Reduced to Skin and Bones Revisited(皮と骨に成り果てる:検討)』
2010年発行(2000~2010年のデータより)
『Reduced to Skin and Bones(皮と骨に成り果てる)』
関連ニュース
【セミナー開催報告】ペット取引される爬虫類
-上野動物園×WWF・トラフィクセミナー-
2017年09月25日
2017年9月9日、トラフィックは、上野動物園にて「ペット取引される爬虫類」についてのセミナーを開催しました。生息地の開発や、ペットにするための捕獲、密輸により、絶滅の危機に瀕しているカメやトカゲなどの爬虫類。これらの動物は、密輸される途中で保護されても、多くは生息地に帰ることができません。なぜでしょうか?こうした日本のペットショップで販売される爬虫類の取引の現状と問題について、専門家が解説。参加者の疑問に答えました。
©トラフィック
国内での象牙取引で違法事例再び
古物商ら12人が書類送検されるも不起訴に
2017年08月30日
2017年8月25日に象牙9本を違法に取引した容疑で、東京都内の古物商と従業員、その顧客ら12人が書類送検されるという事件が報道された。これは、6月20日に同じく18本の象牙を違法に取引した業者が書類送検された事件に続き、2017年で2件目の摘発となる。さらに29日には、不起訴処分となったことが明らかになった。世界では、ゾウの密猟と象牙の違法取引に歯止めをかけるため関係国が抜本的な対策に着手する中、日本国内で相次ぐ違法な象牙の取引。国内市場管理の問題点があらためて浮き彫りになっている。
©Martin Harvey / WWF
【セミナー開催のご案内】上野動物園×WWF・トラフィックセミナー
-ペット取引される爬虫類-
2017年08月23日
2017年9月9日、トラフィックは、上野動物園にて「ペット取引される爬虫類」についてのセミナーを開催します。動物園で飼育されている爬虫類の生態やペット人気の陰で絶滅の危機に瀕している種を守るための取り組みと、日本のペットショップで販売されている爬虫類の取引を巡る課題などを専門家が分かりやくお話しします。
© Michel Terrettaz / WWF
2017年08月08日
2017年8月8日、トラフィックは、日本の主要eコマースサイトでの象牙取引を調査した報告書を発表した。調査の結果、オンライン店舗のほか、ネットオークションや個人向けフリマサイトでも活発な取引が行なわれる中、現状の規制に大きな課題があることが明らかになった。今回の調査で、これまで不明瞭だった、特にインターネットを通じた象牙取引の一端が明らかになったことから、日本政府にはあらためて、違法取引を許さない包括的な規制措置を求めていく。
©Martin Harvey / WWF
関連出版物
発効:トラフィック【2017年8月】 著者:北出智美【日本語】Briefing Paper
Chi Initiative BRIEFING PAPER World Rhino Day 2017
発行:Chi Initiative【2017年9月】 著者:TRAFFIC【英語】24pp