
![]() 野生生物法医学の分野について概要が説明された。 ©TRAFFIC |
【香港発 2016年9月】
野生生物の保全に取り組むNGOと香港の学会は、9月のはじめに、野生生物の違法取引の調査および法執行を支援するための、野生生物を対象とする法医学の利用について検討するためのセミナーに参加した。
セミナーは、トラフィック、米国国際開発庁(USAID)支援の野生生物TRAPS(Trafficking, Response, Assessment and Priority Setting:不正取引に関する分析と対応措置の優先順位設定)プロジェクト、TRACE(Tools and Resources for Applied Conservation and Enforcement:保全と執行に適用可能なツール)野生生物法医学ネットワーク、および香港大学が共催したものである。
TRACEのテクニカル・ダイレクター、Ross McEwing氏による基調講演では、野生生物法医学の分野および香港において、技術的な法医学の能力を持つことの意義について、概要が説明された。法医学は、香港の越境において押収された野生生物製品の識別、出所、取引経路に関する詳細な情報を明らかにするためのものである。
トラフィックのゾウ・サイプログラムリーダーのトム・ミリケン(Tom Milliken)は、法医学分析の利用について述べ、入手可能な押収データに基づき、象牙および犀角の違法取引の動態の傾向に関する洞察が得られることを示した。
香港における野生生物のDNA研究の例については、香港大学および嘉道理農場曁植物園(KFBG:Kadoorie Farm and Botanic Garden)の研究施設の研究を通して説明がなされた。これらの機関では、フカヒレ、ウナギの稚魚(シラスウナギ)、犀角、センザンコウのウロコ、象牙などの押収された野生生物を取り扱うとともに、ランや偽装表示がなされた水産物に関する法医学的研究も担ってきた。
「香港では、すでにある程度、法医学的なDNA鑑定を実施する能力があるものの、その能力を向上させ、研究施設による協力した取り組みをさらに促す余地はある。それによって、重複を最小限に抑え、それぞれの技術的な強みを発揮することができる」と、トラフィックの東・南アジア地域担当ダイレクターであるYannick Kuehl(ヤニック・キュール)は述べた。
「どこに知識のギャップがあるのかを理解することで、香港独自のニーズに即した法医学の能力を構築することが可能となる」と、キュールは付け加えた。
このセミナーは、2016年6月に南アフリカで開催された「RhODIS® サイのDNAに関する科学的ワークショップ」に続くものであり、野生生物TRAPSプロジェクトを通じ、米国国際開発庁から資金提供を受けて開催された。6月のワークショップは、標準化されたサイの法医学的なDNA体系の拡張に関し、サイの生息国、中継国、消費国から科学者および法執行官を集めて開催され、世界中の複数の研究施設において比較可能なDNAプロファイルを作り出すことを目的とした。
TRACE野生生物法医学ネットワークについて:
TRACE野生生物法医学ネットワークは、英国を拠点とする非営利組織であり、野生生物犯罪の訴追における法医科学の利用とともに、研修、能力開発、法医学試験開発プロジェクトを通じた野生生物取引のモニタリングを促進するために活動を行っている。
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