何百万匹というトッケイヤモリの飼育繁殖の現実性に疑問 © M. Auliya / TRAFFIC |
【インドネシア、ジャカルタ発 2015年11月6日】
新たなトラフィックの報告書は、輸出目的で年間何百万匹ものトッケイヤモリを繁殖するための許可が与えられたインドネシアの飼育繁殖事業の実行可能性を疑問視している。
報告書 『Adding up the numbers: An investigation into commercial breeding of Tokay Geckos in Indonesia(辻褄合わせ:インドネシアにおけるトッケイヤモリの商業目的の繁殖に関わる調査)』によれば、現在の飼育繁殖事業の状況でこれほどの数を繁殖するのは実行不可能であり、ヤモリは必然的に野生から供給されてしまうだろう。
トッケイヤモリの商業目的の繁殖はインドネシアでは許可されており、2014年3月にはインドネシア林業省が、6社に対し許可を与えたと発表した。ペット取引を目的として、飼育繁殖のヤモリの生体を年間で合計300万匹以上輸出するものである。
報告書では、これだけの規模の飼育繁殖事業には莫大な財政投資、巨大な施設および大勢の従業員が必要となり、全く採算性がないとしている。
調査員たちは、繁殖施設がヤモリの成体を1年間に100万匹繁殖させるためには、繁殖用メスの個体14万匹とオスの個体1万4千匹が必要であると試算した。さらに、毎年継続的に使用できる孵化用容器が3万個、飼育用ケージ11万2千個と、孵化した幼体の生存率100%を必要とする。繁殖用施設では、何百人もの従業員やヤモリの飼育に最小限必要なエサの継続的な供給も欠かせない。生体1匹を繁殖させ輸出して利益を得るためには、経費を1.9ドル(およそ230円)未満にする必要がある。
「必要な投資を考えた場合、充分な規模で一年中トッケイヤモリを維持し繁殖することは明らかに不可能なうえ、利益を得ることはできない」と、トラフィックの東南アジア地域代表クリス・シェファード(Chris R. Shepherd)は述べた。
「私たちが話を聞いた業者たちは、請け負う可能性は低く、ましてや金銭的に魅力的な提案でもないと言っていた。つまり、輸出割当量を満たすため、多くのヤモリを野生から捕獲して、飼育繁殖であるかのように虚偽申告し、合法化して国際取引する、というのが必然的に導かれる結論である」。
インドネシアは、年間の捕獲数と輸出割当量を設けて野生で捕獲されるトッケイヤモリの取引を管理している。100万匹のヤモリの生体を輸出する許可を近年受けた業者のうち1社が、2006年に野生で捕獲し乾燥させたヤモリおよそ39万匹を輸出したとみられている。これは、定められた目的(ペット用の生体)および、その時点で国が定めた野生生物の捕獲割当5万匹という双方に対する違反となる。この1社は、林業省から近年許可を受けたその他の5社と同様に、これまでに商業目的でトッケイヤモリを繁殖させた実績や過去にペット取引用に提供したことがあったかなどは明らかではない。
インドネシア、ジョグジャカルタの市場で販売されている
トッケイヤモリ © Elizabeth John |
トッケイヤモリを商業目的で繁殖するための許可申請は、厳密に審査されるべきだと報告書の著者らは提言している。また、インドネシアに対しワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)附属書IIIにトッケイヤモリを直ちに掲載するよう求めている。インドネシアからの取引を監視できるようにするためであり、国際取引において規則を強化できるようワシントン条約附属書IIへの掲載に値するか考慮するためでもある。
「何百万匹というトッケイヤモリが国際的に取引され、東南アジア中で野生の個体数に悪影響が出ていることから、種の存続を脅かすことのない取引の基準を確立することが肝要だ」と、オックスフォード・ブルックス大学Vincent Nijman教授は述べた。
トッケイヤモリは、アジアで伝統薬としての使用のため何世紀にもわったて取引されてきたが、2009年に突如として需要が急増した。HIV/エイズが治る可能性があるとのうわさが流れた後のことである。世界保健機関(WHO)は、この主張を否定する声明を発表した。また、この種は一般に広くペットとして飼われている。
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