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アジアの淡水ガメ・リクガメへの取引の脅威に対して取り組むべき課題はまだ多い

2011年04月01日
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110301Orlitia_borneensis.jpg ボルネオカワガメ Orlitia borneensis は世界最大の淡水ガメの一種。マレー半島、ボルネオ、スマトラに生息する。IUCNのレッドリストでは近絶滅種(CR)に掲載されている。©Mark Auliya / TRAFFIC Southeast Asia

【シンガポール発、2011年3月1日】

 世界中の淡水ガメ・リクガメの専門家が集まった会議で、アジアに生息する種の悲惨な現状が報告された。こうした種の多くは、何年にも及ぶ違法で非持続可能な取引の影響をまともに受けている。

 シンガポールで開かれた「アジア産の淡水ガメ・リクガメの保全ワークショップ」に70人の専門家が集まり、アジア産の淡水ガメ・リクガメ種のおかれている現状を評価をおこなった。そこでは、多くの種が野生では絶滅の危機に瀕しており、こうした問題に取り組むための対策がほとんどなにもおこなわれていないことがわかった。

 この会議では、こうした脅かされている種のグループの存続にとって、違法で非持続可能な取引がもっとも大きな脅威であることが報告された。またこうしたカメ類を守るための現行の法律や条約がうまく執行されていないということもわかった。

 淡水ガメ・リクガメは、世界でももっとも絶滅が危惧されている動物のグループである。おそらく、アジア以上に状況が深刻な場所はないだろう。最近カメ保全同盟(Turtle Conservation Coalition)から発表された報告書『Turtles in Trouble: the World's Top 25 Most Endangered Tortoises and Freshwater Turtles((仮訳)世界でもっとも絶滅のおそれのある淡水ガメ・リクガメトップ25種)』では、この25種のうち68%の淡水ガメ・リクガメがアジアを原産としている。

 シンガポールの会議では、86種のアジアの淡水ガメ・リクガメのうち72種について評価された。この会議は野生生物保護区シンガポールグループ(Wildlife Reserves Singapore Group)およびワイルドライフ・コンサベーション・ソサエティ(WCS)、タートル・サバイバル・アライアンス(Turtle Survival Alliance)、カドーリー・ファーム・アンド・ボタニック・ガーデン(Kadoorie Farm and Botanic Garden)、サンディエゴ動物園グローバル(San Diego Zoo Global)、IUCNの種の保存委員会の淡水ガメ・リクガメ専門家グループ(IUCN SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group)が協力し、開催したものである。

 
110301RotiIsland_Turtle.jpg 未来は専門家の手に。マッコードナガクビガメChelodina mccordi は国際的なペット取引のために野生のものはほとんどいなくなってしまった。
©Chris R Shepherd / TRAFFIC Southeast Asia

マレーシア半島、ボルネオ、スマトラにしか生息しない、世界最大の淡水ガメであるボルネオカワガメOrlitia borneensis は、違法な採集や食肉用の輸出のため、現在は近絶滅種(CR)に分類されている。ミャンマー固有のビルマホシガメ Geochelone platynota は、ペットとして国際的な取引向けの執拗な密猟のために、野生では絶滅の可能性があると考えられている。

 会議ではまた、アジア産淡水ガメ・リクガメの野生での生息状況・自然史・現在の分布について理解をより深めるため、野生の個体群の調査をおこなう必要性があるとわかったことも重要な成果である。

 専門家達はまた、こうした種すべてにとっての主要な脅威となっている取引に関して監視強化の必要があることも強調した。救護センターや生息域外における群体の維持(ex-situ assurance colonies)が急務であることについても提起された。

 アジアの淡水ガメ・リクガメについての警鐘が最初にならされたのは、1999年の専門家会議の時である。この会議はカンボジアのプノンペンで開催され、アジアのカメにどんな危機が迫っているかを世界に警告した。

 アジアの淡水ガメ・リクガメは、主に東アジア地域で、食肉としての需要を満たすためや伝統薬に使うために大量に採取された。また、こうした種はペットとしても需要がある。取引の多くは違法におこなわれている。

 約10年後、専門家達が再び集まり、状況がさらに悪化していることを知ったのだ。

 86種のうち、70種近く(およそ80%)が絶滅の危機に瀕していると考えられている。これは、これらの種が評価された1999年以来劇的な増加である。近絶滅種(CR)の数だけ見ても90%増加している。

 過去10年でいくつかの成功もある一方、全般的にはこの戦いにはまだ敗れ続けている、と専門家達は言う。彼らは現在の脅威について話し合い、淡水ガメ・リクガメ種を絶滅から救うために必要な活動の優先順位付けをおこなった。

 
110301Cuora_amboiensis.jpg 規制されていない取引のため絶滅においやられているマレーハコガメ Cuora amboinensis
©Chris R Shepherd / TRAFFIC Southeast Asia

 「現在の衰退率で、もし国際条約や国内法が執行されないのであれば、私たちは永遠にアジアの淡水ガメ・リクガメ種の多くを失うことになる」とトラフィックサウスイーストアジアの地域事務局長代理で、IUCNの種の保存委員会淡水ガメ・リクガメ専門家グループのメンバーでもあるクリス・シェファードは言う。

「恐竜の時代からいる種のグループに属する淡水ガメ・リクガメにとって、取引は、それだけで最大の脅威となっている。彼らの未来はいま、政策決定者や法執行機関、保全団体の手中にある。これまで、こうした種を守る努力が十分だったというにはほど遠い。もしこうした種を守る努力や意欲が大幅に増強されなければ、こうした種の多くを失うことになるだろう。」

 シェファードは、多くのアジアの淡水ガメ・リクガメを保護しているワシントン条約を十分に活用するよう当局に呼びかけている。

 「こうした種を絶滅から救うことは可能である一方、取引の脅威はいまだ健在で、ますます大きくなっていることが過去10年間で示された」とワールドコンサベーションソサエティのリージョナル・ハブ(WCS Regional Hub)のディレクターであるColin Poole氏は言う。

 「特に懸念されるのは、多くのカメ類のペット取引の影響が大きくなっていることや、主に南アジアを原産とするスッポン類などやわらかい甲羅を持つカメ類の甲羅を乾燥させたものへの需要があることである。」

 この会議に日本からはトラフィックが参加した。トラフィックはこの会議でカメの取引に関する情報提供を担当し、日本国内のペット市場にこれらのアジアの淡水ガメ・リクガメの多くが持ち込まれ取引されているという現状を報告した。こうした報告は、それぞれの種の危機的な生息状況や管理の現状と照らし合わせ、今後の保全や管理の対策を立案するための重要な情報として会議の結論にも影響を与えている。

 トラフィックイーストアジアジャパンのプログラムオフィサー金成かほるは言う「日本は爬虫類のペット輸入国として、アジアの淡水ガメ・リクガメ種の危機的状況の一端を担っている。世界にこうした日本の状況を報告するとともに、国内においても法体制の整備や消費者への認知向上など必要な措置についても働きかけていきたい。」

注:
• 淡水ガメ・リクガメの生息状況やその他の有用な情報については「IUCN絶滅のおそれのある種のレッドリスト」のサイトでご覧下さい(英語)。www.iucnredlist.org
•レポート『Turtles in Trouble: the World's top 25+ most Endangered Tortoises and Freshwater Turtles』(英語)はタートル・サバイバル・アライアンスのウエブサイトでダウンロードできます。http://www.turtlesurvival.org/

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