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野生生物保護でも金メダルを!~旅行者はお土産品に注意~

2008年08月15日
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  差し止められた漢方薬など
 
差し止められた漢方薬など

【トラフィックイーストアジアジャパン発 2008年8月6日】

 いよいよ8日、北京オリンピックが開幕する。急速な経済発展を遂げている中国は、野生生物消費国としても知られるようになっている。海外旅行の楽しみといえば買い物とグルメ。その際のお土産と食事に気をつけて、感動のオリンピック観戦を。

 最近の情報では、周辺諸国から野生生物やその部分が流入しており、中国は野生生物の一大消費地としての存在感を高めつつある。なかには、密猟された野生生物が、密輸によって中国国内に流れ込んでいる例もある。

 中国に渡航する日本人が、こうした野生生物に由来する食品や医薬品などをお土産として買う機会があるだろう。そこで思い出して欲しいのがワシントン条約。ワシントン条約は絶滅のおそれのある稀少な野生動植物や、それらから作られた加工品の国際取引を規制しており、海外で購入し日本に持ち帰ろうとして、税関で輸入が差し止められるといったケースが多数起きている。

 昨年、税関で輸入が差し止められた総件数は953件。このうち65%(全体の3分の2)にあたる626件が中国から持ち帰ろうとして輸入が差し止められたケースであったのだ(資料1の図1)。また内訳では、もっとも多かったものはジャコウジカを使用したもので、以下、ヒョウ、サイガ(ウシ科アンテロープ亜科の動物)、ヘビ(ニシキヘビ他)、クマと続いており、そのほとんどが漢方薬や健康食品の原材料として使用されていたものであった。(資料1)

 中国にオリンピック観戦に行くのみならず、海外に渡航する日本人は、そのお土産品がワシントン条約の規制の対象となっていないかどうか、気をつける必要がある。知らないでいると、せっかく買ったお土産品を税関で手放すことになりかねないばかりか、原材料となっている野生動植物たちを必要以上に利用することにもなりかねない。つまり、絶滅のおそれのある稀少な野生動植物から作られた商品を買い求めないことが重要なのだ。購入者が少なくなれば、こうした商品の供給は減少し、商品の需要が減った結果、絶滅のおそれのある稀少な野生動植物が採取・捕獲される機会も減少していくこととなるのだ。

 また海外に渡航される日本人は、お土産だけでなく食事にも気をつける必要がある。例えば、高級中華料理に使われるフカヒレやアワビ、また西洋料理に使われるキャビアなどは、過剰な消費がこれら野生動植物の生息数の減少の大きな要因のひとつと言われているのだ。その他にも、スッポンなどの淡水ガメやナマコの過剰消費も問題になっている。何を食べようかと考えるときは、食材に何が使われているかも注意しながらメニューを選んで欲しい。特に中国には絶滅のおそれのある稀少な野生動植物が世界中から集められ、食材として利用されているのだ。(資料2)

 購買力のある日本人旅行者や中国の富裕層が、ワシントン条約で規制されている野生生物由来の製品の消費を控えれば、その野生生物の保護にもつながる。今回の北京オリンピックでは、そうした面にもスポットライトをあてたいものである。トラフィックとしては、「野生生物保護でも金!」をキャッチフレーズにすることを提唱したい。

 トラフィック イーストアジア ジャパンの代表、石原明子 は、「お土産を買う時、食事をする時、それが何でできているのかよく考えてください。そして世界の野生生物には限りがあることを思い出してください」と語る。

ワシントン条約とは:
商業取引によって野生生物種の存続が脅かされることのないよう、国際的に取引を規制する条約。1975年に発効し、現在締約国は173ヵ国(2008年8月1日現在)。約35,000種の野生動植物種の国際取引が規制されている。規制は生息状況や取引状況などに応じ、3つのカテゴリーに分けられており、また、これらの部分や製品であっても規制の対象となる。条約対象種の国際取引をおこなう場合には、条約に基づいた特別な許可書が必要となる。ワシントン条約は、締約国が許可書または、証明書を発行する権限を有する管理当局と、輸出入について種の存続を脅かすことはないかどうかの科学的助言をおこなう科学当局を設けることを規定している。日本では、管理当局は経済産業省、科学当局は環境省と農林水産省が担当している。詳しくはトラフィックイーストアジアジャパンのウエブページをご覧ください。http://www.trafficj.org

**************************************************
■本件に関するお問合せ: トラフィック イーストアジア ジャパン 石原明子(Tel:03-3769-1716)
http://www.trafficj.org
■添付資料:資料1: 中国から日本に来る違法な野生生物
資料2: 各国から中国へ違法に運ばれる野生生物 (事例1、事例2)

************************************************** 【資料1】中国から日本に来る違法な野生生物
~旅行者はお土産品に注意~

<差し止め件数>
2007年に日本の税関で、輸出許可書の未取得などの理由でワシントン条約の対象となる製品が差し止められている。総件数は953件であった。うち、65%に当たる626件が中国を輸出国とするものであった。

日本の税関で2007年のワシントン条約対象種の
差し止めの輸出国(地域)別割合(件数)




写真:上から、ジャコウジカc Gerald S. CUBITT / WWF-Canon、
ニシキヘビの皮を使った楽器(二胡)


<差し止め品内訳>

中国から日本に持ち込まれようとして差し止められた626件のうち、動植物種別の内訳でトップ5は、ジャコウジカ、ヒョウ、サイガ、ヘビ(ニシキヘビ等)、クマであった。上位に入っているのは、薬(漢方薬)の成分として含まれるものが多い。楽器や皮革製品の素材に皮が用いられるヘビ(ニシキヘビ他)も4番目に多い差し止めとしてあがった。これら以外には、アメリカニンジン等植物由来の薬やラン、サボテンなど、生きたは虫類、チョウザメ、サンゴやシャコガイなどが差し止められている。

中国から日本へ持ち込まれようとして差し止められた製品の動植物種別のトップ5(件数)

1 ジャコウジカ
168件 

薬、(他に牙加工品など)

2 ヒョウ
124件 

3 サイガ*

81件 

4 ヘビ(ニシキヘビ他)
78件 

楽器、皮革製品(原皮、バッグ、財布、靴、ベルト、時計バンド)、酒、生体

5 クマ
66件 

主に薬、他に食品、酒など

*ウシ科アンテロープ亜科の動物
※一件で複数の動植物種が含まれる場合には重複して数えている。
出典:財務省関税局 ワシントン条約該当品輸入差止等実績(2007年)
http://www.customs.go.jp/mizugiwa/washington/washington2007.pdf

 

 
差し止められた漢方薬など
野生生物を含む漢方薬の成分表示
 

 



  【事例1】相次ぐロシア極東地域でのクマやトラの部分の押収

 

ivory carvings
押収されたトラの皮とクマの掌
cPavel Fomenko / WWF


極東ロシアのプリモルスキー州の税関と国境警備隊は、中国向けの違法な野生生物から作られた製品を押収した。

押収にはツキノワグマおよびヒグマの掌やシベリアトラの皮と骨が480個、野生のチョウセンニンジン(朝鮮人参)20kgが含まれていた。特に、シベリアトラの部分とそれらを利用した製品が押収されたのは、今年に入って4回目である。本年1月、360kg分のクマの掌とシベリアトラ3頭の毛皮と骨、サイガの角531本が押収された。 続く2月には、ハンカ分遣隊からの国境警備隊が130個のクマの掌を押収している。さらに7月、ウラジオストクの税関で、北朝鮮国籍の人物1人の出国手続き審査中、130個のクマの掌が発見された。
サイガの角を除くこれら押収物品は、ロシア極東地域から来ている。

「この最近の押収は、ロシア国境の極東地域を越えて密輸されている野生生物製品がどれだけの量になるかを示唆している」とトラフィックのアレクセイ・ワイズマンは言う。

いわゆる「ハンカの裂け目」といわれているのは、中国とロシアの国境地帯ではもっとも悪名高い一帯のひとつである。この区域での厳格な管理を維持するためにも、違法な取引を差し止め、これらを持ち出しの責任を負う者を捕まえることがもっとも重要である。ワシントン条約の書類に関連した複雑な官僚機構の簡略化もまた、状況をよくする手助けとなるだろう。

このクマの掌とチョウセンニンジンの密輸にかかわった中国国籍とロシア国籍の人物に対する法的手続きが始まっている。


【事例2】中国と東南アジアでセンザンコウの違法取引相次いで発覚

 

ivory carvings
ベトナムで押収されたセンザンコウc Viet Nam Customs


最近、センザンコウ類Manis が中国や東南アジアで相次いで押収されている。トラフィックネットワークが集めた各国の情報からみると、船で輸送中のトン単位の大規模なものからトラックで輸送中の十数頭など、状況はさまざまであるが、東南アジアから消費地である中国などに運ばれる途中で押収される事例が目立つ。

 センザンコウ類として知られているのは有鱗目センザンコウ科のセンザンコウ属に属する8種である。全身を覆っているうろこが特徴的で、アリやシロアリを食べるため長い舌を持つ。インドから東南アジアにかけてアジア地域に生息しているのがミミセンザンコウManis pentadactyla、インドセンザンコウM. crassicaudata、マレーセンザンコウM. javanicaM. culionensis で、アフリカ大陸に生息するのがキノボリセンザンコウM. tricuspis、オオセンザンコウM. gigantea、サバンナセンザンコウM. temmincki、オナガセンザンコウM. tetradactylaである。2007IUCNレッドリストの中でキノボリセンザンコウ、オオセンザンコウ、オナガセンザンコウの3種はLR(lc)(低危険種)*、M. culionensis以外の4種がLR(nt)(近危急種)*に分類されている。
(*IUCNレッドリストの旧カテゴリーによる1994年の評価結果。2007年のレッドリストでもこの結果を用いている。その後、生息状況が変わっている可能性があり、今後の評価の更新が期待される。M. culionensis については、最近までM. javanica の亜種とされていた。)

 
 
cSandrine Pantel

 センザンコウ類の肉は食用に、うろこは中国などで伝統薬の原料に、皮は皮製品に利用される。人間による狩猟・密猟がこの種の存続に対する主な脅威となっている。1975~76年にはワシントン条約の附属書IIまたはIII に掲載されたが(サバンナセンザンコウは附属書 I )、その後95年にセンザンコウ属全種が附属書 II に移行され、センザンコウ類すべての国際取引が規制されるようになり現在に至る。野生から採取され、主として商業的目的で取引されるインドセンザンコウ、マレーセンザンコウおよびミミセンザンコウ、M. culionensis については、毎年ゼロの輸出割当が設定されており、輸出入は認められていないことになる。


最近のセンザンコウ類の、各国メディアから集めた押収事例をいくつか紹介する。
はトラフィックネットワークのページへのリンク)

  • 中国:2008年4月、広西省の防城港から江西省に向かう輸送中の18頭が押収された。
  • マレーシア:2008年4月、Kepala BatasのKampung Kubang Menerungにある倉庫などの一連の捜索で98頭が押収された。
  • 中国:2008年4月に報じられたところによると、北京、鎮江、山東、広東など向けのオオトカゲ類やオオサンショウウオ類、クマの掌とともに76頭が押収された。
  • ベトナム:2008年3月、ベトナムのハイフォン港でインドネシアから中国に向かう途中だった船の中から16 tがみつかった。
  • 中国:2008年3月(報道)、生きている29頭と死んだ62頭が曲靖で押収された。
  • タイ:2008年3月、ソンクラのRattaphum districtのPhet Kasem Roadにおいて113頭が押収された。
  • ベトナム:2008年2月、ベトナムのハイフォン港でインドネシアからの船荷から7tのセンザンコウの死体とうろこが押収された。
  • 中国:2008年2月、広州から上海に向け輸送中の60頭が押収された。
  • 中国:2008年1月、Luxi森林警察がミャンマーから密輸された生きている19頭を押収した。
  • タイ:2008年1月、ラオス国境近くのTambon Nam KhamのKhub Pung村でトラなどと一緒に275頭が押収。ラオス向けの船に積まれるところであった。
  • 中国:2008年1月、広州の森林警察によって生きている16頭を含む53頭が押収された。
  • タイ:2007年11月、タイ税関はラオスから中国南西部に密輸された100頭以上を押収した。
  • タイ:2007年10月、Chumphonの警察がノンカイに向かう車の中から130頭を押収した。

 中国では、2005年9月から2006年5月に2,849頭と68tのセンザンコウの肉と900kgのうろこなどを密輸した2人に執行猶予付き死刑判決が下った事例がある。 


 
 
センザンコウの皮のブーツ
cJames Compton/TRAFFIC SEA

 日本の合法的な輸入を示す、ワシントン条約掲載種の輸出入記録(UNEP-WCMC CITES trade database)によればセンザンコウ属の輸入については、1980年代に皮や皮革製品を輸入していたが、90年代に入る頃には輸入は大幅に減少した。2001~2005年の5年間では、80年代のような大量の革製品の輸入はほとんどない。一方中国を見ると、これほどの密輸が押収されているにもかかわらず、正規の輸入の記録は少ない。1994年と1996年にそれぞれ 2t と 5.6t のうろこと、1999年に2 t の皮の輸入があった。

 アジア産のセンザンコウ類は現在輸出割当がゼロに設定されているため、原産国からの商業的な輸出はないはずである。にもかかわらず東南アジアで押収される数がもっとも多い哺乳類としてセンザンコウがあげられる。このような状況を踏まえ、トラフィックは今年7月頃にシンガポールにおいて国際ワークショップを開催する。「南・東南アジアを原産とするセンザンコウの取引と保護(仮)」と題したワークショップでは、原産国と消費国から、政府関係者をはじめNGOや研究者など関係者を一同に集め、センザンコウの違法取引をめぐる問題などについて話し合われる。

**************************************************

■参考資料
トラフィックネットワークウエブサイト(Latest seizure & Other reports)
IUCN 2007. 2007 IUCN Red List of Threatened Species. <www.iucnredlist.org>. Downloaded on 12 May 2008.

2008年08月15日
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