サイトマップ
Google
HOME > ニュース > 2008.11.24
 

2008年11月24日 トラフィックネットワークNEWS

過剰利用に脅かされるインドの薬用植物


 

薬用植物として使用されるインドイチイ(ヒマラヤイチイ)などの種が過剰な採取によって減少していることが、今回の報告書により明らかになった。
© Samir Sinha / TRAFFIC India
 
【インド、デリー】
 
インドは野生から採集された薬用植物産業の拠点市場となっている。しかし、主要な種が薬用植物の国内・外の市場に供給するため過剰に採集され、減少傾向にある。そのために持続可能な供給を確保するための対策が必要であることが、トラフィックが発表した報告書からわかった。

 ドイツ連邦自然保護庁 (Bundesamt fur Naturschutz, BfN)により委託されたこの調査ではワシントン条約で保護されている7種を中心に調査が進められた。

 野生の植物種は、アジア諸国において基礎的な医療を支えており、特に、漢方薬、アーユルヴェーダ、シッダ、ユナニー、チベット医学などの伝統的な施術において見られる。また、その一方ではインドジャボクRauvolfia serpentina から抽出されたレセルピンやインドイチイTaxus wallichiana から作られたパクリタキセルなどの抽出物は、ヨーロッパ、北米、その他の国において、製薬的な用途としても重要である。

 さらに、いくつかの種は香りのよい性質からも需要がある。例えばカンショウコウ油は千年以上前から使用されているし、コウキシタンPterocarpus santalinuas は木材あるい紅色の染料としても需要がある。また、インドにおいて薬用植物の採集と加工は、貧困層や雇用者に対して、少なくとも年間3,500万の労働日数分の雇用機会を創出する。しかし、需要の増加は、インドやその他の地域での生計を立てる上で不可欠な収入源をも脅かすことになる。

 インドで取引されている多くの薬用植物は、近隣国であるネパールの高山帯から採集されたものであり、その地帯は カンショウコウ Nardostachys grandiflora やコオウレンPicrorhiza kurrooa などの種が、何百トンという地下茎をはりめぐらしている。これらの薬用植物は、数千人の収穫者から仲買人にわたり、さらにネパール、インドの大規模な卸売業者にわたる。原材料は流通過程のさらに先での販売のために、デリー、アムリッツァー、コルカタにある卸売市場にしばしば輸送される。

 この報告書の著者、トラフィックのテレサ・マリケンは、「ヒマラヤの薬用植物の取引に関して、すべてではないが多くの道が、主要な加工工場そして消費者市場があるインドに通じる」と言う。

 取引の形式は種によって変化し、中国ではイチイ属Taxus spp. の植物から抽出されるタキサンのような製品の加工場が伸びてきているものの、インドではハーブや製薬製品加工産業が高度に発達している。

 トラフィックとIUCN(国際自然保護連合)の研究者は、アジアの薬用植物の取引についての包括的な概要を示すために、非常に異なる生活史、利用そして取引形式を持つ7種の薬用植物の取引について調べた。その7種のうちホンオニクDesert Cistanche とインドイチイ の2種以外は、インドは取引の主要な目的地となっていることが明らかとなった。

 しかし、必要な部分は植物の一部であって、植物そのものは必要ないにも関わらず、7種すべてが過剰な採取による減少傾向にある。例えば、中国とモンゴルに生育するホンオニクは、寄生している木が飼い葉や薪、木材として採取されるために減少傾向にある。7種は国内法と国際法の下で保護されている。後者は、国際取引を持続可能なレベルに維持することを必要としているワシントン条約に掲載することを通じておこなわれている。しかし、これらの対策にも関わらず野生個体群は減少を続けている。

 マリケンは「薬用植物の採集と取引を持続可能な採取レベルにする規制はあるが、その施行にはたびたび弱いところが見受けられる」と指摘した。

 薬用植物の先細る供給の懸念と過剰な採集への対応として、栽培は通常通り推進されおり、栽培に関する研究は今回の調査対象となった7種すべてについておこなわれている。

 「栽培は解決策のように見えるかもしれないが、いつもそう単純だとは限らない」とMullikenは指摘する。「いくつかの種においては人工的な環境下で生育させるのがむずかしかったり、植えてから商業的に収穫するまでの成長時間が長いため、栽培従事者にとって採算がとれないかもしれない。」成長にかかる期間が種によっては数年かかる可能性もある。

 「これらの種によっては、持続可能な採集方法に関する開発・推進が、持続可能な供給を確保する唯一の実現可能な選択肢かもしれないにも関わらず、あまり重要視されていない」とMullikenは言う。

 トラフィック、BfN、IUCN薬用植物専門家グループ (MPSG) と WWF ドイツは、最近、野生の植物の持続可能な採集に関する新しい基準である「薬用・アロマティック植物の野生からの持続可能な採集に関する国際基準 (International Standard for Sustainable Collection of Wild Medicinal and Aromatic Plants, ISSC-MAP)」を立ち上げた。この基準は、現在、ヒマラヤ西部のウッタラーカンド(Uttarakhand)や、ガーツ西部のカルナータカを含む世界中でいくつかのプロジェクトを試行中である。

 トラフィックインドの代表であるサミール・シンハは、「トラフィックインドは、薬用植物供給の持続可能性を確保する手助けをおこなう最前線にいることを光栄に思っている。この供給の確保はインド内の医療に利益をもたらすだけでなく、インドの植物産業にも、薬草の取引で生計を立てている、多くの地方の貧困層にとっても利益になるからだ」とコメントする。

 この報告書では、保全と開発の懸念に取り組む方法で、薬用植物の採取・取引の管理の向上をするための地域的、そして複数の利害関係者による対策を提言している。

「この薬用植物の保全への挑戦は一国でできるようなものではない。薬用植物と、これらの植物に頼って生計をたてている人々の両方の持続可能な未来を保障するためには、採取者、取引業者、加工業者、政府機関、NGO、研究者の国際的な協力が必要である」と、BfN の植物保全のセクションの責任者であるUwe Schippmannは言う。

 具体的な提言は、ワシントン条約などの規制のよりよい施行を達成し、取引、市場の傾向、そして、取引されている種の生育状況、最近の採集方法、その他採取に関わる現状について、より正確な情報を把握することを通じて、薬用植物の持続可能な出所を確保することを目指している。

 「長年、取引されてきたこのような種の地域の暮らしにおける重要性は、どれだけ強調してもしすぎることはないだろう」とIUCNの薬用植物専門家グループの代表、ダナ・J・リーマンは言う。「しかし、薬用植物の持続可能な供給を確保するための地域的、国際的な取引の限度について可能な限り正確な情報を得る必要がある。そして、その持続可能な供給は、将来、長い期間にわたり地域の家族の収入を支え続けることができるであろう。」

* * *


1) 報告書はこちらでダウンロードできます。
Review of the Status, Harvest, Trade and Management of Seven Asian CITES-listed Medicinal and Aromatic Plant Species(アジアのワシントン条約に掲載されている薬用・アロマティック植物7種の生育状況、採取、取引、管理の調査)』 (PDF, 1.7 MB)

2)本レポートで調査の対象となった7種は以下のとおり。

ホンオニク Cistanche deserticola
 中国、モンゴルに生育する。乾燥させた茎は漢方薬として何千年もの間使われてきた。 効用は腎障害、便秘、強精、不妊を含むさまざまな症状の治療に使われてきた。

エレファント・フット Elephant's Foot Dioscorea deltoidea
 アフガニスタン、ブータン、カンボジア、中国、インド、ラオス、ネパール、パキスタン、タイ、ベトナムに生育する。乾燥させた根茎は、ネパール、ブータン、インド北部、パキスタン、中国南西部の高地にて伝統薬として、主に胃の疾患をはじめとしたさまざまな治療、そして、西洋医学のステロイド系薬物の原材料として利用されている。

カンショウコウNardostachys grandiflora
 中国、ブータン、インド、ネパールに生育する。その根や根茎は、発作や動悸、便秘、利尿、生理不順、消化不良を治療するのに、数世紀もの間インドで利用されてきた。

コオウレンPicrorhiza kurrooa 
 インド、パキスタンに生育する。その根茎は、インドのアーユルヴェーダ、ユナニーの伝統医療の中で抗生物質として、および肝障害を治療するためにインドで広く使用されている。

コウキシタン Pterocarpus santalinuas
 インドに生育する。その心材は糖尿病の治療、そして、炎症の緩和に用いられる。また、家具をつくるための木材や紅色の染料の原料として使用される。

インドジャボクRauvolfia serpentina 
 バングラディッシュ、ブータン、中国、インドネシア、インド、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、スリランカ、タイ、ベトナムに生育する。その根は何世紀もの間、インドにおいて、多様な中枢神経系の疾患、精神不安、精神病に伴う異常行動、統合失調症、精神異常、不眠症、てんかんの治療に使われてきた。そのエキスもまた腸管疾患、駆虫薬の治療に使用されてきた。

インドイチイ(ヒマラヤイチイ)Taxus wallichiana
 アフガニスタン、ブータン、中国、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ネパール、パキスタン、フィリピン、ベトナムに生育する。その樹皮や葉が、インドのユナニー医学において鎮静剤、媚薬、呼吸器系統の疾患、ヘビの咬傷、サソリの刺し傷の治療に使われる。アーユルヴェーダの中では、その薬効は頭痛、下痢、その他の病気の治療に使われる。最近では、特定のガンに対する治療に世界で広く使われているタキサンの原料として使用されている。


3)11月初めに行われた第35回持続可能な開発に関する国際映画祭(35th International Festival of Sustainable Development Films)において、スロバキア厚生省賞を受賞した、「薬用・アロマティック植物の野生からの持続可能な採取に関する国際基準(ISSC-MAP)」の策定の過程に関するフィルムは、こちらで視聴できます。

****************************************

■詳細に関するお問い合わせ

Richard Thomas, Global Communications Co-ordinator, mob: +44 7921 309 176, Richard.thomas@traffic.org

Samir Sinha, Head, TRAFFIC India, Tel. +91 11 41504786, ssinha@wwfindia.net


(2009年2月9日更新)

もどる

WWFホームページへ IUCNホームページへ トラフィック イーストアジア ジャパン
e-mail:traffic@trafficj.org
All rights reserved by TRAFFIC EAST ASIA-JAPAN 2002.